(301)令和2年、初サイクリング。で、空気扱いされる俺。

昼前に起きた。
ニュースサイトに目を通そうと、こたつの上に置いたスマートフォンに手を伸ばす。
「あ」。
1件、メールが入っていた。
「明けましておめでとう。風邪など病気には気を付けてね」。
母親からだった。
正月なのに実家に顔を出さない俺。
申し訳なくなり、もう一度、布団に顔を入れる。

間も無く二度寝に入ろうとしたタイミングで、LINEの通知が連発する。
「面倒くさ」と思いながら確認すると、中学の同級生たちが10人ほど参加しているLINEグループからだ。
新年会のお誘い。
「うわ、俺、こういうの苦手」。
中学は間違いなく同じだが、たいして友達でもない同級生が数人おり、「何の話をしたらええねん?」と悩んでしまう。
中途半端すぎる知り合いは、初対面の人より接しにくい。
そんなことで神経を使いたくない。
「よし、返事は保留やな」。
方針が固まった。

やや迷惑に感じられたLINE通知だったが、おかげて眠気を覚ましてくれた。
「さぁ、新年早々、サイクリングコースを走るで!」。
気合いを入れる。
「今年の目標は、去年より長い距離を走ること…でいこう!」。
やる気がみなぎる。
が、去年、トータルで何㎞走ったか把握していない。
サイコンをチェックしてみたが、数ヶ月前に電池を交換した際、走行距離がリセットされたようだ。
「しゃあないなぁ…」。
その後、コーヒーを飲んだりYouTubeでプロレスを視聴してから、ジャージに着替え、ロードバイクを担いでマンションの玄関に出た。
気合いを入れてから、約1時間半後のことである。

天気はいいし、それほど寒くもない。
冬物のアンダーウェアとジャケットだけで十分だ。
「今日は快適に走れそうやなぁ」。
そんな期待を寄せて、武庫川サイクリングロードに向かった。

武庫川サイクリングロードは、北側のゴール(宝塚市役所辺り)から南側のゴール(武庫川河口)まで、10㎞ちょいの距離。
まず、北に向けて進路をとる。
そして脚を回し始めた時、黄色いジャージを身にまとい、激走するロード乗りとすれ違った。
ほんの一瞬。
と、同時に「あれ?今の人、チームメイトのAさんちゃうか?」。

Aさんは180㎝以上の大柄な体。
「今、すれ違った人と体型は似てるよな」と思う。
また、一瞬だったのでちゃんと確認できなかったが、Aさんと同じ青と黒のフレーム。
「やっぱりAさんやろ」と思ったが、ロード乗りはヘルメットを被ってアイウェアをかけるので、顔がよくわからない。
たまたま体型とフレームが似てるだけの人…という可能性もある。
「メールして聞いてみよか。『今、サイクリングロードを走ってませんか?』って」。
「いや、真剣に走ってる最中にメールが来ても、気付けへんやろ。仮に気付いたとしても、メール不精のAさんのことや。スルーされる」。

「考えても仕方がない。Aさんのことは気にせず、俺は俺でサイクリングを楽しめ」。
そう言い聞かせて、再度クランクを回し始めた。
が、「新年早々会ってんから、一緒に走りたいよな」とも思う。
「でも、あの人、Aさん違うかも知れんやん」。
「いやぁ、Aさんやろ。あの体型は」。
「もしAさんやったら、すれ違った時、俺に気付くやろ?さっきの黄色いジャージの人、俺に目もくれず走り去っていったで。俺、空気みたいな扱いやったやん」。
「あまりにも真剣に走ってたから、俺に気付けへんかっただけやろ」。
クランクを止め、ウダウダと自問自答を繰り返す。

結論としては、写真を撮ったり無駄に休憩を繰り返しながら、俺は北に向けてのんびり走る。
と、そのうち、黄色いジャージ(Aさん?)は南側のゴールを折り返し、北に向かう俺に追い付いてくるはず。
その時、黄色いジャージがAさんでなければスルー。
スピードを上げて満たされるサイクリングをしよう。
もしAさんであることが判明した場合は、「どうも!一緒に走りましょう!」。
うん、見事な折衷案だ。

時速20㎞ぐらいのスピードで走っていると、道の脇の芝生で、楽しそうに凧揚げをしている子供たちが目に入った。
俺が最後にやったのは、小学校の低学年だったか。
当時も楽しいと思わなかったし、大人になってからも「凧揚げしたくて、ウズウズするぜ」。
なんて感じたこともない。
が、何故か他人がやっているのを見ていると、「久々にやってみたいな」という心境になる。
「なぁ、その凧、ちょっと俺に貸してくれへん」と子供たちに話し掛けてみようか悩む。
「待て。普通に不審者と思われる」。
頭の中のもうひとりの俺が冷静な判断を下してくれた。

「なかなか追い付いてくれへんな。黄色いジャージの人」。
ちょこちょこ後ろを振り返りながら、クランクを回したり止めたり。
結局、Aさんなのか赤の他人なのかわからない人に追い付かれないまま、俺は北側のゴール、宝塚市役所前に着いてしまった。
「あぁ…、帰ろか」。
折り返して南に進む。

と、「来た!向かって来た!黄色ジャージ!」。
俺に気付いてもらおうと、スピードをゆるめ、敢えてセンターラインギリギリを走る。
これで、嫌でも俺が見えるはず。
黄色ジャージが近付いてきた。
「やっぱり顔はわかりにくいけど、Aさんっぽい」。
「あの人のヘルメット、白やな。Aさんと同じやな」。
「Aさん率がかなり高くなってきたな」。
そんなことを考えていると、黄色ジャージは俺には目もくれず走り去っていった。
一瞬で。
俺は、また、空気扱いされた。

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