(58)パピヨン危機一髪!犬好きの俺がロードバイクで犬をひきかけた話-1

小学5年の冬の話。
学校から帰り、家の鍵を開けると、いつも夕方6時頃に仕事から帰ってくるはずの母親がこたつに入っていた。
「今日は早いなぁ」と特に気にせず、いつも通りランドセルをそこら辺に投げ捨てようとしたら、俺に向かって白黒のネズミが走ってきた。
俺の足の指を噛もうとする。
寒い中、制服の半ズボンを履いていたせいでパリパリになった俺のすねを爪で引っ掻く。
突然のことで驚きながらも、しゃがんでそいつを確認したところ、シーズーという種類の犬だった。
生後3ヶ月で、手のひらに乗る小ささだ。

母に話を聞くと、前々からペットショップでシーズーの子犬を予約していたそうだ。
そう言えば、その少し前に「オオクワガタ買って」と頼み込んだことがあった。
母親は、「子供の情操教育に役立つ」と考え、オオクワガタよりシーズーを選択したのだろう。

しばらくシーズーと一緒に暮らしていると、好奇心旺盛で、とにかく活発。
「なかなかおもしろいやつだなぁ」と思った。
ある日、俺がゴロゴロしていたら、床に置いていたティッシュの箱の前で、彼は踊っている。
「何やろ?」と思い、近付いて観察すると、自分の体とそう大きさの変わらない箱から出たティッシュを、噛んでは投げ噛んでは投げを繰り返していた。
おそらく、ティッシュを噛んで引っ張り出したら、また次のティッシュが出てきたから、それが不思議だったんだろう。
「これはおもろいわ」と思い、母親にも教えたら、「やめてー」と叫んで飛んできた。
確かに、ティッシュがもったいない。

またもや俺がゴロゴロしていると、遊んで欲しそうに俺を見つめる。
俺は、耳掃除をしていたので、「ちょっと待っとけよ」と言い、耳かきの操作に集中した。
次の瞬間、耳に激痛が走る。
多分、彼は、耳かきの先にある綿に興味を持って、触ってみたかったんだと思う。
痛すぎて俺がもがいていたら、言葉は話さないが、申し訳なさそうにこっちを見ていた。
以後、同じいたずらはしなくなった。

目が大きくてまつ毛が長く、足が短くて、素の顔と笑顔、必死な顔が極端で、常におもしろいことを探しているこの子犬も、大人になるごとに、少しずつ落ち着きをみせる。
「かまってくれ、遊んでくれ」と俺のまわりを飛び跳ねていたのに、自分の暇な時だけ俺に絡んでくるようになり、逆に俺の方から絡みにいく機会も増えた。
晩年は、足が悪くなり、歩くのに困難なようで、寝たきりになった。
次第に頭も正常ではなくなり、たまに起きたと思えば、無駄吠えをする。
俺が誰かもわかっていなかったと思う。

社会人になってしばらく経ち、俺は25歳になっていた。
ある夜、寝てる彼を見ると、呼吸が弱々しいことに気付く。
間もなく彼がいなくなることが予想できた。

※この記事は、2019年2月19日、俺が別のブログに投稿した文章を、加筆、修正したものです。

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