(353)BianchiのBERGAMOを買うBさん-1

「乗鞍を登りたいんですよ」。
「イベントあるでしょ?乗鞍ヒルクライム。あれに参加したいんです」。
偶然、焼鳥屋でチームメイトのBさんに会い、酒を酌み交わしながら話していると、ほろ酔い気分のBさんがそう言った。
俺の心境としては、「乗鞍?」。
「はぁ?乗鞍?」。
「馬鹿も休み休み言えよ」。

チームメートのBさん。
実は、チームメートと言いながらも、一緒に走ったのは去年の12月が最後。
あれは「伊勢志摩サイクリングフェスティバル」の日。
しつこい登りもあったが、ヒルクライムというほどではない。
のに、何度か足をついていたBさん。
「乗鞍?無理に決まってるやんけ」。
「気でも狂ったんか?」。
まぁ、俺自身、乗鞍岳に挑戦したことは無いので、その辛さは実感として無いが、「Bさんには無理」と率直に感じる。
「死ぬで」と思う。

「やめといた方がええよ」と言いたいところだ。
が、「これから乗鞍を目標に頑張りたいんです」と言われると、対応に困る。
何に目覚めたのかは知らんが、Bさんは本気のようだ。
俺としては、彼のチャレンジ精神を握り潰すわけにはいかない。
背中を押したい気持ちになった。

「わかりました。頑張って下さい。ただ、現時点でふたつ課題があります」。
「まず、体重を落としましょう。腹が出過ぎです。また、軽くなった方が、登りも楽になるでしょう」。
「それと、もうひとつ。ロードバイクを買って下さい」。
Bさんは、俺とあっちこっち行く際、マウンテンバイクで走っていた。
「いい機会です。ロードを買いましょうよ、Bさん」。
「そもそも、乗鞍ヒルクライムのイベントって、ロードじゃないと参加資格無いんじゃないですかね?(知らんけど)」。

Bさんの夢を握り潰したくはないが、現実を教えてあげるのも親切。
のつもりが、俺は空気を読めなかったのか、Bさんはしばらく無言になり、会話のキャッチボールが中断。
「あ、そういや、BさんもBianchiに乗りたいって言うてましたよね?初ロードでBianchiで安いの、買ってみたらどうですか?ギリギリ10万未満のがありますよ」。
俺はセールスマンでは無いが、話しているうちに「Bianchiでギリギリ10万未満」がBさんの魂を揺さぶったようだ。
「僕はロードの細かいことがわからないんで、krmさんはどう思います?その車種」とBさん。
「アルミロードでフロントフォークがカーボン。まぁ、それほど高くない価格帯のオーソドックスな感じですわ」。
「コンポーネントはSHIMANOの製品だったと思うんですが、プロが使うクラスでは無いにしろ、趣味としてロードに乗るには問題無いかなと」。
後から調べたところ、Clarisだった。
問題無いだろう(俺は使ったこと無いけど)。

「Bさんやったら、車であっちこっち行くでしょ?自転車屋の『サイクルベースあさひ』って、見掛けたことありません?」。
「あります。嫁が会員証持ってます」。
「そのあさひとBianchiが共同開発したロードがあると、何かの記事で見掛けたんですよ。値段は10万未満でね、何ていう車種かまで記憶に無いですけどね」。
「それ、買います」。
「買うのは結構ですが、自転車屋とは長い付き合いになると思うので、Bさんの家から出来るだけ近いあさひで買うのがいいかと思います」。
「なら、山幹(山手幹線)のあさひが近いです。都合がいいです」とBさん。

Bさん、買う気満々になってきた。
「不確かな情報を提供してはダメだ」と、スマートフォンを取り出し、「Bianchi あさひ 共同開発ロード」を検索。
「これですわ。BERGAMOです」。
画面を見せると、「これで10万未満なんですね」。
「はい。なかなか発色の良いチェレステですね。見栄えがいいですよ」とセールストーク。
別にね、俺にバックは無いけどね。
「買いますわ。krmさん、土曜、暇ですか?」。
話の流れで、俺も付き合わされることになった。
Bさんはロードを初めて買う。
まぁ、不安もあるのだろう。

「土曜ですけど、自分も一緒に行くのはいいのですが、山幹のあさひに在庫があるかどうかはわからないですよ」。
「じゃ、電話で確認しましょう」。
酔っ払ったBさんが、あさひ山幹西宮店に電話をかけた。
ベラベラと何か関係の無いことまで話している感じのBさん。
この人、害悪レベルのコミュニケーション能力を備えている(相手の気持ちを汲み取ることが出来ず、話してたら相手も喜ぶと勝手に、一方的に信じてるタイプ)。
俺は隣で「話、通じてるんか?」と不安になった。
何か話か噛み合ってないような。
そのうち、「担当の者に代わります」みたいな雰囲気で、Bさんのスマホを押し付けられた俺。

「Bianchiとあさひさんで共同開発したロードで、9万いくらのがあるとネットで見たのですが、サイズが46で、そちらに在庫がありますかね?」。
確認したところ、何となく、店員が「何それ?」みたいな空気を醸し出しているように感じた。
「あ、あのクラシカルなタイプのですね?」。
俺は、「クラシカル?そうでもないと思うけど」と思ったが、とりあえず「はぁ」と答える。
そして、「土曜にそちらに伺い、実物を見たいです。こちらはBという者です(便宜上、Bさんの名を語る)。宜しくお願いします」と話した後、電話を切った。

酔っ払って気持ち良さそうな顔をしているよ、Bさん。
「初めてロードを買えるんだ。乗れるんだ」と満足感や希望も含んだ顔ではないかと思う。

以前から、Bさんがロードに憧れを持っていたのは、会話の節々からよく感じていた。
いつもいつも。
高級外車とロードがイコールで結ばれているような解釈をしているようだ。
話を聞いていて、「でもね、ロードはママチャリと違って独特の乗り方もありますけどね、一握りの天才しか乗れないもんでもないですよ」。
心の中で、そう呟いていた。
俺はいつも。

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