(68)サイクリングロードの橋脚で壁当てをする。野球と俺。-2

飲み屋で安請け合いをし、草野球に参加することになった。

次の日、起きてすぐ不安にかられる。
ボールを握るのに、かなりのブランクがあるからだ。
あれは確か、20年近く前だったか、職場で草野球チームを作ろうと、数人の同僚に呼びかけた。
日曜の午後、待ち合わせ場所の河川敷に来たのは、変なおっさん(同僚)と俺だけ。
まさかの2人。
世間話をしながら、夕方まで2人でキャッチボールをした記憶がある。
消し去りたい。

いきなり試合、ぶっつけ本番で、体が動くかどうか、はっきり言って自信が無い。
間違いなくチームの足を引っ張る。
「そんな不安にさいなまれて試合当日を迎えるより、出来る限り自主練をしよう。少しでも不安がやわらぐだろう」と思い、さっそく自主練を始めたいところだが、その前にしなくてはいけないことが、俺にはある。
まず、グローブを探すことから始めなければならないのだ。
一人暮らしを始める時、実家から持ってきた荷物の中にグローブがあったはずだ。
まさか、役に立つ時が来るとは。
押し入れの中をひっかきまわす。
存在すら忘れていた大量の本やガラクタの中に、ミズノの茶色いグローブが紛れ込んでいた。
久しぶりにはめてみると、懐かしい感触だ。
古いミズノのロゴにも時代を感じる。
同じミズノ製のグローブでも、ランバードのロゴマークが入った今の物より、この古いMizunoのロゴに俺は愛着がある。
野球に対する情熱が、完璧によみがえった。
野球がしたくてウズウズする。

「ロードバイクに乗って近所のサイクリングロードに行こう。そして、橋の下で壁当てをしよう」とグローブとシューズをサコッシュに入れてから、気付く。
ボールが無い。
なら、近所のスポーツ用品店に行って買えばいいだけの話だが、「そもそも試合では何球を使うのか?」と疑問が浮かんだ。
硬球ではなく軟球なのは間違いない。
ただ、軟球でも、俺が子供の頃は、A球、B球、C球と規格があった。
どうせボールを買うなら、試合で使うボールと同じ規格がいい。
草野球に誘ってくれた知り合いから、何球を使うか確認を取ろうとしたが、いつ返事が来るかわからないので、その日の壁当ては諦めた。

だが、ボールを投げたい、受けたい欲望を抑えられない。
ボールがなくてもできることを何か?
今、唯一できることはシャドウピッチングしかないという結論に至った。
それでいい。
今の俺にとって、投球フォームを固める必要性は十二分にある。
散らかった部屋に散乱するゴミやガラクタを隅に寄せ、ピッチングに必要なスペースを確保。
そこに存在しないボールを、これまた存在しないキャッチャーに向かって投げる。
存在しないキャッチャーミットから、「バチーン」と小気味の良い音が響く(脳内で)。
その日、部屋でひとり、ぜえぜえ言いながらシャドウピッチングを楽しんだ。
翌朝、起きると、肩が痛い。
筋肉痛だ。

※この記事は、2019年2月27日、俺が別のブログに投稿した文章を、加筆、修正したものです。

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