(382)ロードバイクお遍路について、前向きになる-1

鳴門から帰り、俺は知り合いのFさんのお店(飲食店)を訪れた。
Fさんには、聞きたいことがあったので。
夕方と言うには少し早い時間だったと思う。
「ガラガラッ」と引き戸を開け、「こんにちは」。
お客さんは誰もおらず、Fさんひとり。
「あの、ちょっとしたもんですが」と、鳴門のお土産を手渡した。

日の出印の味付け海苔だ。
鳴門に行くと、いつもスーパーのマルナカに寄り、3つか4つ買う。
「この海苔、めちゃめちゃうまいんで、家でお酒飲みながらでも、是非どうぞ」。
「あー、大野海苔じゃないですか。これ、美味しいですよね」。

俺はFさんに借りがある。
先月、鶏肉屋でおごってもらったのだ。
確か、ふたりで14,000円。
「割り勘でいきましょう」と言ったが、酔っ払ったFさんは気持ちが大きくなったようで、結局、俺はお世話になった。
酒と鶏肉、7,000円。
海苔(400円ぐはい)とは釣り合いが取れないが、俺なりの誠意だ。

で、本題に入る(Fさんに対してもだが、記事的にも)。
「Fさん、以前、お遍路を経験したって話をしていましたよね?」。
「はい、30過ぎの頃ですけどね」。
Fさんは、40代後半に差し掛かった年齢。
髪はやや薄いが、顔立ちや体格は若々しい。
あまり人見知りせず自分のことを話すタイプで、人生において行き詰まった時の話をちょくちょく聞いた。
まぁ、俺もだが、人生は思い通りにはいかないもので、ある機会にFさんはお遍路回りをしたと。

お遍路とは、四国にある弘法大師ゆかりのお寺、八十八ヵ所を回る。
徒歩で1400㎞ほど(自転車の場合はもう少し距離が必要らしい)。
また、ネットで調べると、一度に全てのお寺を制覇するのに、徒歩で50日ほど。
自転車で20日ほど。

「Fさん、自分はちょこちょこ鳴門に行ってましてね、鳴門を中心に高松とか高知方面にロードバイクで走ると、たまに歩きのお遍路さんを見掛けるんですよ」。
「はい」。
「それで、『いつかロードに乗って』と考えていたんですが、そろそろしようかなと」。
「あ、いいじゃないですか。いろんな人と出会えて優しさを感じることもあれば、人間の業の深さを実感することもあって、いい経験になると思いますよ」。

「それでね、ネットで調べると徒歩で50日ぐらいかかるとありましてね」。
「そうなんですか。僕はもっと短期間に八十八ヶ所巡りを終えましたよ。当時、仕事をしていなかったので時間はあったんですが、金が無かったんですよ。だから、宿泊費や食費をなるべく出さなくていいように、早く終えることを心掛けて」。
「なるほど。ちなみに、ロードの場合は20日ほどらしいんです。ただ、自分は20日間も休みを取るのは難しい…」。
「でしたら、分けて八十八ヶ所巡りをすればいいんじゃないですか?」。
「そういうルール、アリなんですかね?」。
「はい。結構いてると思いますよ。分割してお遍路巡りをする人」。

「お遍路さんって、杖を持って歩いてるじゃないですか?あの杖は、必要なもの何ですか?自分はロードで回るので、杖があると走りにくいかなと思いまして」。
「あの杖は、弘法大師の化身でしてね、疲れ果てても困難な道に差し掛かっても、『いつも弘法大師が一緒にいてくれる』という意味があるんですよ」。
「ほぉ」。
「それに、昔はですね、今と違って命懸けの過酷な旅だったので、お遍路の最中に自分が息絶えても、杖が卒塔婆の役目を果たしてくれて、成仏させてくれたんです」。
「そんなに大事な意味があるものやったら、ロードで回ると言ってもやっぱり必要ですよね?杖」。
「う~ん、いらないんじゃないですかね」。

「じゃあ、傘はどうでしょうか?お遍路さん、頭に傘を被ってますよね。自分はロードなので、空気抵抗や安全性を考えて、ヘルメットの方がいいかなと思うのですが」。
「僕がしたのは歩きお遍路だったので、菅傘を被ってましたけど、いいんじゃないですかね。ロードならヘルメットで」。

「白衣はどうでしょう?お遍路さん、白衣を羽織ってはるじゃないですか。自分も買っておいた方がいいですよね?」。
「そうですね」。
「ただ、ロードの場合、どうしても空気抵抗や汗をすぐに乾かしてくれる面でも、ジャージの方が助かるんですけどね」。
「なら、ジャージで走ったらいいと思いますよ」。
「そうですか…」。

ここまで話を聞いていて、ふと思った。
「結局、いつも通り、普通にサイクリングする格好やんけ」と。

つづく

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