(383)ロードバイクお遍路について、前向きになる-2

相変わらず、客は俺ひとり。
Fさんのお店で、四国八十八ヶ所巡りについて話を聞く。

「1400㎞も歩き続けるわけですから、いろんな経験をされたと思うのですが、『これは旨かった!』とか『これは絶対食べとけ!』ってもの、何かありますか?」。
俺は「うどん」と答えが返ってくると予想しつつ質問したのだが、「土佐清水ですね!」。
Fさん、即答。
「土佐清水?それは何ですか?」。
「高知県にね、土佐清水市ってところがあって、そこの清水鯖がすごく旨いんです」。
「鯖のどんな料理なんですか?焼いてるのか煮てるのか」。
「僕は刺身で食べましたけど、本当に旨かったです。もともと刺身自体あまり好きじゃなかったんですけどね、清水鯖の刺身は旨すぎてびっくりしました」。
俺は「ほぉ」と言いながら考え、想像した。
実は、俺も魚が苦手。
刺身も苦手。
肉が好き。
なのだが、「俺も清水鯖を食ったら感動するんかなぁ」。

日本酒をおちょこに注ぎ、くいっと飲んだ後、赤ら顔になった俺は鯖の刺身に箸を伸ばす。
少し醤油につけて口に含む。
言葉には出さない。
心の中で呟くのだ。
「旨い」と。
「旅の疲れたが取れた…」。
「これひとつで、全てが報われた気分だ…」。
口には出さないが、表情に出る。
俺はまた日本酒を一口飲み、刺身に箸を伸ばすのだ。
と、そんな想像をした。
飽くまで想像ね。

「お遍路の最中、身の危険を感じたことはありませんでしたか?」。
「身の危険ですか?」。
「ふと思い出したんですが、以前、鳴門からロードバイクに乗って徳島を南下したんですよ。室戸岬に向かって」。
「はぁ」。
「その時にね、かなり室戸岬に近い辺りやったと思うんですが、白衣に傘を被ったお遍路さんが見えてきましてね」。
「はい」。
「なんか、踊ってるんですよ。『何してるんかなぁ?』と思いながら追い越した時にですねぇ、犬に向かって杖を振り回してたんです」。
「それは野犬ですか?」。
「多分、そうやと思います。お遍路の最中に、そういった身の危険を感じた経験はありましたか?」。

少し深刻な顔になったFさん。
「ありましたね」。
「野犬ですか?」。
「いえ、鎖に繋がれてなかったけど飼い犬でした」。
「?」。
「たまたま犬を見掛けたんで、『おう』とかね、声を掛けたら、こっちに突っ掛かってきましてね。それがデカい犬で、もう死ぬかと思いました」。
俺は「それ、あんたが悪いだけやんけ」と思った。

「あと、猿ですね」とFさん。
猿なら、サイクリング中に俺もヒヤッとした経験がある。
徳島と香川の県境にある大坂峠を登っている時に、猿の群れに出くわし、しばらく捕捉される雰囲気になった。
「次のお寺に向かって歩いてると、四国って自然豊かやから山に沿った道を進むことも多いんですよ」。
「はぁ」。
「山沿いの道はね、落石防止ネットが張られてまして、ネットの上から猿の集団が挑発してくるんですよ」。
「え、それで猿と乱闘になったとか?」。
「一応、猿は追いかけてくるけど距離を保ったままなんで、何もされなかったですけど怖かったです」。
「なるほど。そんなんあるんですね」。
正直、「ちょっと怖いよなぁ」と思ったが、Fさんは歩き。
俺はロードバイクなので速度が違う。
「なんとかなるやろ」と結論づけた(俺の中で)。

「いろいろ勉強になりました。有り難うございます」。
Fさんにお礼を言って、店を出た。
家に帰ってからも「ロードに乗ってお遍路」。
頭の中はそればかり。
寝転がって、ネットで情報収集していると、いつも俺を鳴門に連れて行ってくれるNさんからメールが入った。

出だしは、「先週の鳴門ツアー、お疲れ様でした」。
「はい、お疲れ様でした」と思いながら読み進める。
「先週は釣りの成果がさっぱりで、帰ってからも悔しい気持ちでいっぱいです」。
確か、Nさんは真鯛を狙ったが成果は0。
全然期待していない魚(何かは知らん)を1匹だけ釣ったと言っていた。
「そこで、今週も鳴門に行こうと考えているのですが、ご一緒に如何でしょうか?」。
スマートフォンの画面を見ながら、思わず「おっ!」と小さな声で叫んだ。
断る理由など無い。

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