(401)勘違いしたおっさんの自分語りに付き合い、感じたこと。

仕事の後、阪神甲子園駅の辺りをぶらぶらし、「久しぶりにおっちゃんの店で飲もかぁ」と5分10分歩いた。
家族経営の小さなお店。
以前は、お店のテレビで野球を観ながら酒を飲み、お店の従業員家族と一緒にぼやいていたのだが、今はコロナのせいで野球が無いため、足が遠のいていた。

「こんばんはー」。
店に入ってカウンターに進むと、「珍しいなぁ。先客がおるなぁ」。
禿げ頭のおっさん(以下、HO)が視界に入った。
知らん人だ。
酔ってるっぽい。
大きな声で従業員家族と談笑している。
とりあえず俺はカウンターの隅に座ると、「兄ちゃん、そこやとテレビが見えにくやろ?もうちょっとこっちに寄りやぁ」。
気を使ってくれているようなので、お言葉に甘える。

お店のおっちゃんと「最近、調子はどうですか?」などと世間話をしつつ、瓶ビールをちびちび飲む。
と、「兄ちゃん、よかったらこれ食べへんか?」とHO。
ホルモン焼きか何かを箸で指して、俺に話し掛けてきた。
「すみません。自分はさっき少し食べたんで、あんまりいっぱい食べれませんわ。お気持ちだけ頂きます」。
この時点では、まだHOに悪い印象を持たなかったが、「絡んでこられると面倒くさいな」と警戒。
俺の経験上、初対面で酔って絡んでくるおっさんは、「ややこしいおっさん」の可能性が高い。

例えばだ。
「兄ちゃん、若いうちは苦労せえよ」から始まり、「俺はこれだけ苦労した」という苦労アピール。
「おっさん、それ、さっきも聞いたって」という話を恥ずかしげも無く繰り返し、遠回しに「苦労してきた俺は偉い」アピール。
で、とどめに「お前も苦労しろ」と人様に苦労を強要する。
たちが悪い。
俺からしたら、「知らんがな」だ。
若い頃から、誰も頼んでいないのに、この苦労アピール+苦労強要パターンの説教を聞かされた経験が多々ある。
その度に、「苦労しなくてもいいようにどうすればいいか、真剣に考えろよ」と思ったものだ。

もうひとつ。
まず「昔はなぁ」から始まり、「俺はいくらいくらの金を動かしていた」アピール。
まぁ、遠回しに「俺は偉かった」だ。
所詮、バブルのボーナスステージを経験したが、バブルがはじけて身の丈に合った現実と嫌でも向き合わされたおっさんに多い。
で、自己顕示欲だけは一丁前だからたちが悪いのだ。
「俺は偉かった」の後に、「お前はこうすべきだ」と誰も頼んでいないのに勝手に啓蒙活動。
「あぁ、この人は偉人だなぁ」と思えば、こっちの方からアドバイスを求めに伺いますよ。

「HO、面倒くさい絡みはすんなよ」と念じながら、瓶ビールを続けて飲んでいると、「兄ちゃん、酒はビールしか飲まんのか?」。
HOに聞かれ、「芋焼酎が好きです。このビール飲んでから、芋を飲もうか思ってます」。
「そうか。おい、大将、兄ちゃんに芋飲ましたって」。
有難いけど、有り難くない。
断りたいけど、断りにくい。
嬉しいけど、「あぁ、この後、マウントとりにくるやなぁ」。
複雑な心境になる。

「ありがとうございます。いただきます」。
乾杯。
の後、不安は的中し、HOの独演会が始まった。
話を聞いていると、HOは苦労アピール+人様に苦労強要系ではなく、「俺は昔なぁ」系。
身なりを見て、また、そもそも誰にも頼まれていないのに勝手に自分語りをしている時点で、「あぁ、負けたんやな」と感じる。
人生、別に勝つのが全てとは思わないが、「人様を相手に語るのなら、それなりの結果を求めますよ。例えば、あなたは長者番付に名を連ねたお方なんですか?」と思ってしまうわけだ。
俺は。

みすぼらしい老人HOから「昔なぁ、いくらの金を動かしてなぁ」を聞き、「『一応、すごいですね』って言わなあかんのかなぁ」と気を使いながら、言ってみたり相槌を打ったり。
「楽天の三木谷さんやソフトバンクの孫さんの話やったら金を出しても聞きたい思うけど、自己顕示欲だけは一丁前のわけわからんおっさんの話なんか、金もらってもいらんわ」。
「時間の無駄」。
でも、聞かなくてはならない。
芋焼酎をおごってもらった時点で、俺は戯れ言に付き合わなくてはならないのだ。

昔話の引き出しがやたら多く、ペラペラペラペラと本人以外にとっては1円の価値も無い話が続く。
俺としては、「根拠の無い自信を持った坊や」とか「わがまま言っても許されるのが当たり前のお嬢ちゃん」。
そんな年頃の人に対しては寛容になれるのだが、ええ歳こいて自意識だけ肥大化しかおっさんの話を聞くのは苦痛でしかない。
「おっさん、お前が偉いんはわかったから、もう家に帰って壁に向かって語り続けろよ…」。

「なぁ、ワシ、何歳やと思う?」。
まさか、おっさんからこんな質問が飛んでくるとは想定していなかったので、俺はたじろいだ。
しばらく言葉に詰まっていると、「ワシなぁ、74やねん」。
素直に「知らんがな」だが、「『お若く見えますね』という回答を期待してるんやろなぁ」と判断。
「そうなんですかぁ。お若くみえますね(普通に年相応やと思うけどな)」。
気を使ってそう言ったところ、「そうかぁ?それにしてもなぁ、兄ちゃん。兄ちゃんは覇気が無いわ」。
「え?」。
「兄ちゃんはなぁ、大人しい。存在感が薄いタイプや」。
何故かダメ出しをくらう俺。
「参ったなぁ」と思う。
「本当はな、おっさんみたいに言いたいこと言いたいよ。でもな、世間に『あぁ、こんな人間になりたいなぁ』と思われるわけでもない俺が、遠回しに『俺は偉いんや』アピールをしたら、普通にアホと思われるんやわ。あと、頼まれてもいないのに『世の中とはこうだ、仕事とはこうだ、人生とはこうなんだ!そして、お前はこうすべきなんだ!』と勝手に啓蒙活動をしてまうと、それは世間にとっては迷惑やねん。誰にも求められていないことを押し付ける奴はな、存在自体が害悪なんやわ。俺はそうなりたくないの。おっさんみたいにな、自己評価が高いだけで世間には評価されない、自分で自分を褒めて、さらに人様を巻き込んで自分を褒めて満たされる。そんな人生、あまりにも惨めじゃない?俺はそうなりたくないし、そんな奴を軽蔑してるの」。
言いたくても言えなかった。
芋焼酎の効果だ。

ええ歳こいて勘違いしてる奴の相手をするのは本当に辛いが、なんとか1時間耐えに耐え、「もうそろそろ解放してもらえるかなぁ」と考えていると、「兄ちゃんは若いやろ?」。
「兄ちゃんは、20代?30代か?」。
「いえ、自分は40代です」。
「若いで。40やったらまだいける。ワシもその歳に戻りたい。もう一発勝負できるからな。1億出してでも、40に戻りたい」。
それからしばらく、HOは何か語っていたが、俺は完璧に無視して考え事をしていた。
「40代、若いんかぁ」。
「俺は自分で自分自身を『終わってる』と勝手に決めつけてたけど、確かに70代から見たら若いよな」。
「そやな、若いんやろな」。
「若いうちに、ロードバイク、とことん乗らなあかんわ。今のうちやわ」。
次の日は雨だったが、その次の日、仕事を深夜から始めて昼過ぎに終わらせ、俺は武庫川サイクリングロードを走った。

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