(446)甲子園と俺-2

試合開始。
「高山の肉三昧弁当」を食いながら、グラウンドに目を移す。
マウンドには、先発ピッチャーの秋山。
「丁寧に、丁寧に投げたら大丈夫やから」。
心の中で秋山に語りかけていると、友人からLineが入った。
「何や?」。
スマートフォンをポケットから出し、かなり他愛もない文章に目をやる。
と、球場全体から歓声が沸き起こった。
「何や?」。
堂林にホームランを打たれた。

チューハイを飲む。
もとは缶チューハイなのに、カップに移し替えただけで美味く感じる。
球場の雰囲気のおかげなのか。

どう攻略するかを考えながら、弁当に箸を伸ばす。
「卵焼きの後は、牛→米→牛→米。たまに豚やな」。
「鶏は酒のあてにしよ。残しとこ」。
野球より弁当に集中していると、また歓声。
サンズがホームランを打ち、阪神は1-1に追い付いた。
全然観てなかったけど。

「野球みたいなもん、どうでもええわ」。
弁当に集中しすぎて、そんな気分になってきた。
チューハイを一気に飲み干し、「次はビールを飲もか」。
辺りを見回し、売り子の姉ちゃんに声を掛けようとしたが、近くにいた売り子はアイスを抱えていたのでスルー。
「ビールの売り子はどこ?」ときょろきょろしていると、ふと思い出した。
「俺も甲子園で売り子のバイトをやってたよなぁ」。

記憶に曖昧な部分もあるが、高校1年から2年になる春休み、小学校からの友人Iと売り子のバイトを申し込んだ。
バイト代は、1,000円が固定。
後は歩合。
オープン戦のデーゲームが初出勤となり、朝からIと待ち合わせ、自転車で甲子園に向かった(交通費を節約するため)。
確か、大阪(実家)から2時間ほどかけて甲子園に着き、従業員用の出入口を入ってバイトを申し込んだ○○商店(名前は忘れた)の事務所へ。
「UCC」だか「甲子園球場」のロゴが入ったジャンパーを手渡され、「頑張ってね」と。
UCCの缶コーヒーを20缶ほど立ち売り箱に入れ、それを担いでスタンドを回って売る。

が、観客が少なすぎる。
当たり前だ。
常識で考えて、平日の昼間から野球観戦する人など多いわけがない。
さらに、相手はロッテ。
当時のロッテは、川崎から千葉に移っただけの不人気球団で、今のように熱い応援団が支えるチームではなかった。
「無人島で商売する気分だぜ」と悲観的な気分で立ち売り箱を担いでスタンドを渡り歩き、「まったく売れない」、「売る機会がそもそも無い」。
なかなかの絶望感。
まぁ、それでも一般の客では入れない通路を通りVIPになった気になれたので、ちょっと嬉しかったが。
粘り強く内野スタンド、アルプス、外野を何周もして、なんとか1本売れた。
しかし、その頃には試合も終盤。
「もうええやろ」と、ガラガラの客席のひとつに座ってぼんやり野球観戦。
すると、友人のIや事務所で会った他のバイトの人も集まり始め、4人で仕事を放棄して野球観戦。
四天王寺国際仏教大学(今の四天王寺大学?)に通っていると言う、可愛い顔立ちの姉ちゃんが嬉しそうに「さっきね、やっと売れたんですよー」。
京都西高校(今の京都外大西?)の3年で、ちょっと悪そうな兄ちゃんは、「あまりにも売れへんから、自分で金払って飲んだわ」と。
彼らとは再び会う機会は無かったが、今も記憶の中にいる。
その後も何試合か甲子園で売り子のバイトをしたが、「ただで野球観れてよかったわ」ぐらいの結果となった。

「それにしてもビールの売り子、けえへんよなぁ」。
空がピンクになり、照明が輝きだした。
夕方の甲子園らしい景色になった。

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