(107)怖い目にあった。ロングライド後、夕日を浴びながら金縛り。-1

数年前の話である。
8月の終わり頃、ロングライドを兼ねてお墓参りに行った。
いつもなら、道が空いている早朝に家を出るのだが、その日、寝坊をした俺は、朝の10時頃に出発する。

暑い中、信号の多い道を走り、ストレスの溜まるサイクリングとなった。
顔中の汗が顎からぽとぽとと落ち、トップチューブにあたってはじける。
Tシャツは汗でびしょびしょになり、体にへばりつく。
たまらない不快感に悩まされながら、少し走っては信号待ち、少し走っては信号待ちを繰り返した。

霊園に着いたのは、14時頃か。
駐車場の隅にあるフェンスにロードバイクを立て掛ける。
盗難防止のため、車体とフェンスを頑丈なチェーンで縛り付け、クリートをカタカタ鳴らしながら、霊園に入った。

霊園は、小高い丘にあり、緑に囲まれている。
普段なら、落ち着いた雰囲気のある場所だが、数日前の台風の影響で、道は落ち葉と落ち枝に埋め尽くされ、ところどころ泥の水溜まりがある。
それを避けるように、ゆっくりと坂を上がり、俺は、我が家の墓石の前で足を止めた。

水を含んだタオルを手に、墓石を磨きながら1周回っていると、斜向かいの墓が目に留まった。
土の地面に突き刺さった、週刊少年ジャンプほどの墓石と花立て。
いつも、「誰かお参りしてるんやろか?」と思っていた、その小さな墓石がひっくり返っている。
おそらく、これも台風の影響だろう。
「お墓同士、何かの縁でうちの近所やし、俺の手で立てて、元に戻そうか」と思ったが、「人様の墓石に、他人である俺が触るのは、失礼なことなのかも」とも考え、そのまま放置して帰った。

淀川を渡り、徐々に家が近付いた時に、ふと思い出す。
事務所に寄らなければならない。
ど忘れしていた。
ちょっとした作業が残っている。
家に帰って酎ハイでも飲みながらゴロゴロする予定を変更し、事務所に向かった。

狭い事務所にロードを押し込め、俺はひとり仕事に取り掛かった。
パチパチ…パチパチパチパチ…。
10分ほどたち、ノートパソコンを閉じる。
「とりあえず、やるべきことはやったぁ」ということで、ソファーに腰掛けた。
「あぁ、疲れたなぁ」。
自然と横になり、次第にうとうとしてきた。
暑い中、100km以上走り、その後、少しばかりではあるが仕事をすると、疲れて当たり前だ。
冷房が苦手な俺は、窓を全開にしていたので、それなりに心地よい風が事務所に入ってくる。
「気持ちええなぁ」。

「あれ?体が動かない」。
意識を取り戻した時、そう感じた。

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