(515)鳴門の天気に翻弄される

「居ても立っても居られない」。
そんな心境でクランクを回した9月のある日。

知り合いのNさん(50代 男性)から、「一緒に鳴門に行きませんか?」と誘われた。
鳴門へ真鯛を釣りに行くNさんにとって、同乗者がひとりでもいた方が、ガソリン代や高速代の負担が減って都合が良いのだろう。
また、俺としても、鳴門~高松、鳴門~阿南など、普段走るコースよりも良い環境でサイクリングが楽しめて都合が良い。
「勿論です。連れて行って下さい」。

鳴門に行くのは何ヵ月ぶりだろうか。
前回は「ロードバイクお遍路の下見」と称して鳴門を西に進み、いくつかのお寺を回った記憶がある。
なら、その延長で、鳴門の南に位置する徳島市から、さらにずっとずっと南へ走り、薬王寺に行ってみたい。
以前、鳴門から高知の安芸まで走った際に薬王寺の前を通り過ぎたが、「立派な大寺院やな」と看取れながらも時間の関係で立ち寄れず、そこそこ悔いが残った。
「うん、薬王寺がええな」。
また、他の選択肢としては鳴門~高松。
ほぼ一本道であり、何度も走っているのでルートの確認をする必要も無い。
「高松は高松で都合ええな」。
どのルートを選択するか悩みつつ、出発の前日を迎えた。

17時前に仕事を終え、旅の準備に取り掛かろうと思ったが、気分が高揚している。
鳴門行きが楽しみで仕方無い。
脚を回したくてウズウズしてきた。
「ウォーミングアップの意味で、近所のサイクリングロードをひとっ走りしよか」。
「走りながら明日のルートを決めたらええわ」。

走り慣れたサイクリングロード。
普段は惰性で走ることもあるが、この日はテンションが違う。
集中してクランクを回しながら、「アブ…薬王寺…」。
「アブ…高松…」。
「アブ、薬王寺」。
「アブ、高松」。
「アブ!薬王寺!」。
「アブ!高松!」。
すると、ジャージのバックポケットから振動が伝わり、「何やろ?」。
スマートフォンを取り出す。

Nさんからのメール。
「おそらく、待ち合わせ時間についての連絡やな」。
鳴門からNさんは渡船に乗って釣りに出るのだが、季節によって日の出の時間が違い、渡船が出発する時間も違う。
その影響で、こちらから鳴門に向かうための待ち合わせ時間も異なるので、「待ち合わせは2時半で」とか「2時45分で」といったメールだろう。
そう思った。
が、「明日、雨です」と。
「天気予報が急に変わりました」と。

「ちょっと待ってくれよ…。前日にそれはないでぇ」とガッカリしつつも、一縷の望みを抱き天気予報アプリをチェック。
鳴門は曇り時々雨。
高松は昼から雨。
徳島は朝から雨。
「アホか!?全方位、雨やんけ!」。

呆然と立ち尽くしていると、Nさんからまたメールが入った。
「鳴門で釣りをする分には大して影響が無いと思い、僕は鳴門に行きますけど、krmさんはどうします?」。

どうしよう…。
雨が降るのを承知で鳴門に行くか…。
OK!
さぁ、ここで…、シンキングターイ「嫌じゃ!」。
俺はもう、雨には懲りている。
よっぽどの用事でも無い限り、雨の中を走りたくはない。
スリップにビビりながら路面を注視し、神経をガリガリすり減らして走っても、サイクリングの純粋な楽しさ、快適さを感じることは難しい。
なら、「行かない」が正解だ。
「すみませんが、辞退します」。
俺はNさんに返事を送った。

数日後、Nさんに会う機会があり、「先日の鳴門はどうでした?釣れました?」と話し掛けたところ、「そこそこでしたね」と。
そして、「krmさん、来たらよかったのに」。
「何でですか?」。
「鳴門はね、朝の9時頃にほんの少しパラパラっと雨降ったんですけど、それ以外はずっと天気良かったですよ」。
「え…」。
「あとね、帰りにラーメン食べに徳島市内に入ったんですけど、徳島市内も雨が降った形跡は無かったですねぇ」。
「は…」。

話を聞き、俺は愕然したが、同時にムカムカ…ムカムカ…。
翌日、仕事を終えてから近所のサイクリングを一心不乱に走った。

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