(521)ロードバイクに乗れなかった日-2

涼しく…と言うより、やや肌寒くなった先週の日曜日。
おっさん3人がひしめく車内は、妙に暑苦しく思えた。
カーステレオからは、引っ越しの手伝いを依頼してきたE(40代 男性 俺はそれほど親しくない)の趣味だろう。
古い長渕の曲が流れる。
「泣いて 泣いて 泣いて チンピラになりてえ あ~あ」。
「泣いて 泣いて 泣いて チンピラになりてえ あ~あ」。
久々に聴いた。
「俺が中学入るぐらいの時に出た曲やったかなぁ」。
「長渕かぁ。大麻で捕まるまでは、俺もファンやったわ」。
窓の外に目を向けながら思い出にふけていると、車がロードバイクを抜いた。
一瞬しか見えなかったが、ヘルメットを被った若者がクランクを回している。
「羨ましいわぁ」。
この日は天気の良い休日。
本来なら、俺も彼と同じ格好でクランクを回している。
が、引っ越しの手伝いを安請け合いしてしまった。
「あ~あ」。
「チンピラになりてぇ」。

車は北へ進む。
Eと友人U(40代 男性 こいつは親しい)は、世間話に花を咲かせているが、俺はずっと窓の外を見て「あの高架はJR神戸線やな」。
「次は阪急や」。
「これはJR宝塚線?」。
どこに電車が走っているか、ある程度把握しておかなければならない。
もしも、引っ越しの作業が予想以上に面倒くさくなった場合、逃亡するために。

学生時代、引っ越しセンターでバイトする友人がおり、「欠員が出たから、明日働けへんか?」と誘われた。
早朝、ほぼ始発の地下鉄に乗って引っ越しセンターに向かい、貸し出されたつなぎに着替え、トラックに乗せられて現地へ。
あまりにも過酷な重労働のせいで、昼前には手が上がらなくなった(万歳できない)。
荷物を積み終え、次は引っ越し先に向かうわけだが、「金なんかいらんわ。逃亡しよう」。
まだスマートフォンもGoogleマップも無い時代。
トラックの中から高架や線路を見る度に、現在地と逃走ルートの確認をした。

回想シーン、終わり。

と言ったわけで、俺の経験上、「引っ越し」と「逃亡」はほぼイコールだ。
まぁ、この日は荷物が少なかったので「なんとかなるやろ」とも思ったが、最悪のケースを想定しておいた方がよい。

車はさらに北へ。
車の中は、相変わらずEとUが世間話を続けている。
ひとり暇な俺は、バッグからスマートフォンを取り出してtwitterをチェック。

ツイートに目を通しながら、「ええよなぁ。みんな充実したバイシクルライフを過ごしてるよなぁ」。
羨ましい。
そして、「いいね」。

「今日はどっかの峠を走ってはるんかぁ」。
コミュニケーション能力抜群の人であり、Bianchi SPECIALISSIMAのパンターニモデルに乗っている人のツイートを目にする。
「このロード、飾り気の無いフレームの形状でありながら、チェレステとイエローの配色、最高に格好ええ。目の保養になるわ」。
羨ましい。
そして、「いいね」。

「いいね」を連発していると、引っ越し先のマンションに着いた。
ダンボールを担いでエレベーターに乗り、Eの新居へ。
適当にダンボールを置き、「俺は何でこんなことしてるんやろ?走りたかったわぁ」。
「面倒くさっ」。
「この部屋が事故物件やったらええのに」。
そんなことを思いながら、また車に戻りダンボールを担いだ。

つづく

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