(522)ロードバイクに乗れなかった日-3

車に積み込まれた荷物を取り出し、新居に運ぶEとU。
「仕事でもないのに、なかなかアクティブなおふたりですこと」と、感心しつつサボる俺。

雨の日が続き、久々に訪れた天気の良い休日。
ロードバイクに乗るには最高だ。
が、何が悲しくて、中途半端な知り合い(E)の引っ越しを手伝わなくてはならないのか。

「まぁ、安請け合いした俺が悪いんやわ」。
「Eには大した義理も無いけど、頼まれたんやから俺も手伝おか」。
トランクの中を物色し、「軽そうなのはどれや?」。
「まぁ、これでええか」。
扇風機を軽く抱きかかえ、引っ越し先の部屋に運ぼう…としたが、「ガツ…」。
閉まりつつあったエレベーターのドアに、扇風機をぶつけてしまった。
「うぉ!やってもた!」。
狼狽しつつ、ぶつけた箇所を確認すると「耐えた…。傷は入ってへん」。
モーター等、内部部品が破損し、扇風機として機能しない可能性もあるが、周りには誰もいない。
「バレなければセーフ」と自分に言い聞かせる。

部屋に入り扇風機を床に置き、また車に戻って荷物を抱え…を数回繰り返し、「とりあえずこんなもんか」。
全ての荷物を運び終え、「後は自分でしろよ、E」。
心の中でそう呟きながら、俺は寝転がった。

バッグに手を伸ばし、スマートフォンを取り出してtwitterを起動。
「へぇ。意外やわぁ。東京にあるねんなぁ。自然豊かなコース」。
東京の人のツイートに「いいね」。
「この人、CANYON乗ってるんやぁ」。
「黒と青のフレーム、格好ええよなぁ」。
CANYON乗りの人に「いいね」。
「おー、どこかで見た景色と思ったら、この人、しまなみ海道走ってるやん」。
「走りやすいし景色もええし、この人、満喫してるやろなぁ」。
しまなみ海道の景色に「いいね」。

「そっれにしても、羨ましいわぁ」。
俺もこのサイクリング日和を楽しみたかったが、引っ越しの手伝いをする羽目になり、かったるいだけの1日になった。
しかし、もう済んだことだ。
Eよ。
荷物は全て部屋の中にある。
服も食器も自分でダンボールから取り出し、自分の好きなように収納してくれ。
自分好みの部屋を自分で作ればよい。
自由に。

寝転がってツイートを読み続けていると、インターホンが鳴った。
玄関でEと誰か知らない人が二言三言会話している。
どうやら、洗濯機の配送と設置をする電気屋のようだ。
黙々と作業に向き合う電気屋を横目に、俺はスマートフォンと向き合い、ひたすら「いいね」を押し続けた。

電気屋が帰り、「じゃあ、今日は僕が振る舞うよ。近くに焼肉屋があるようなので、行きましょか」。
Eの口からそんなセリフが出るかと思いきや、「krmさん、食器は備え付けの食器棚に収納をお願い。適当でいいんで」。
「Uさんは、服の担当をお願い」。
ダンボールを開けようとするEの口から、指示が飛んだ。

溜め息が出そうになる。
「ちょっとした期待もあったけど、何となく嫌な予感もあった。あぁ…、やっぱりか…」。
テンションが0からマイナスに突入し、帰ることを決断。
Eからは「何で?最後まで手伝うんが筋やろ?」と思われるかも知れないが、他人にどう思われるかなんて、正直どうでもよくなった。
Uからも「協調性が無いなぁ」と思われるかも知れないが、どうでもいい。

積み上げられたダンボールに目をやり、そこそこうんざりしつつ、「Eさん、俺、帰りますわ」。
「この後、3人でお酒飲むつもりでいたけど、krmさん、いいの?」。
「いいです」。
そして、「実は夜に予定が入ってたんです(嘘)。引っ越しの作業、もっと早く終わると思ってたんですが…、今日はここで…。すみません」と言い訳。

駅に向かって歩く。
予め時刻表を確認しておくためスマートフォンを操作していると、「あ、今はまだ16時過ぎかぁ」。

急いで家に帰れば、ロードに乗れなくもない。
ただ、「最近は18時頃に暗くから、1時間も走られへんよなぁ」。
と言うわけで、ひとりで飲み屋に立ち寄り、チビチビ飲みながら皆さんのツイートを羨んだ。
「富士山が見えるところを走れるなんて、兵庫県に住む俺には信じられへんわぁ」。
「いいね」。

つづく

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