(527)脚を回しながらニヤニヤ-3

明るく元気な声で「ドリンクはどうされますか?」と女性店員。
「生ビールを3つお願いします」。
「有難うございます」。
彼女はそう言い残し厨房の奥へ。
鉄板を囲む我々おっさん3人は、付き出しのキャベツに手をつけようと割り箸を割った。

キャベツを噛みながら、「あ、そう言えば」。
大事なことを忘れていた。
最初に決めておかなければならない。
「なぁ、食べるもんは単品で注文するんじゃなくて、コースでええよな?」。
俺はH(同級生 40代 男性)とI(同級生 40代 男性)に確認を取り、ふたりとも「おぅ」。
そして、ビールを持ってきてくれた女性店員に「コースでお願いします」。

「あっ」。
もうひとつ大事なことを忘れていた。
HとIに言っておかなければならない。
「俺な、センマイあかんねん。刺身はええけど焼きセンマイは苦手やから、コースに入ってたら俺の分も食ってくれよ」。
「おぅ」とH。
そして10秒後、Hの口から「ところでセンマイって何やねん?」。
部位の説明をするのが面倒くさいし、そもそも「さっきの『おぅ』は何やってん?」と俺は思った。
「とりあえず、出てきたもんを食ったらええから」と言い、それでは乾杯。

「お疲れ~」。
ビールをぐいっと飲み、またキャベツを口に詰め込む。
我々の目の前、鉄板の前に立つ女性店員が「モヤシは無料なので~」。
モヤシを鉄板の上に盛り、ホルモンを焼き始めた。
このお店、店員さんが焼いてくれるスタイル。
ちなみにこの女性店員は、我々の鉄板だけではなく、同時に他の鉄板も担当し、焼きながらドリンクの注文を受け世間話までしてくれる。
彼女の調理と接客を見ていると、「この姉ちゃん、若いのにやり手やな」と感心するしかない。

「コースの最初は塩ホルモンからです」。
焼き終えたホルモンを、女性店員がモヤシの上に乗せて「どうぞ」。
ホルモンとモヤシを箸でがっちり掴み、ニンニクを少しつけて頬張ると、「めちゃめちゃ旨いやんけ!」。
塩+ホルモン+モヤシ+ニンニク。
旨いに決まっている。
激アツだ。

次々とホルモンが焼かれ、「どうぞ」。
「旨いわぁ」。
食べ進めているうちに、Hのペースが落ちてきた。
何も、食が進まない…というわけではない。
単にしゃべりに夢中になっただけ。

楽しそうにHが振る話題は、「子育て」と「競馬」と「パチスロ」、「ゴルフ」。
いつもながら俺はうんざりする。
独身であり、博打もゴルフもしない俺の前で語る意味があるのか?
もう30年近い付き合いになるのに、まだ俺の趣味嗜好がわからないのか?

Hと初めて話したのは、中学2年か3年生の頃だったと思う。
元々は「体育の授業を一緒に受ける隣のクラスのやつ」ぐらいの認識だったが、共通の友達がいる縁で話す機会が増え、「まぁ、悪いやつじゃないやろう」。
そんな印象を持った。
あれは高校に願書を出す2、3週間前のことだ。
「おい、お前、どこ受けるん?」。
何となくHに尋ねたところ、「それはちょっと言われへんな。実はある高校をやな…、フフッ」。
何を勿体ぶっているのかわからなかったが、結果的に俺と同じ高校に進学。
「こいつ、まぁまぁアホやねんな」と思った。
高校、大学とHはクラブが忙しく、会う機会は自然に減る。
が、大学を卒業した後、Hは親の経営する飲食店で働き始め、時間に余裕があれば俺も顔を出すように心掛けた。
社会人になって久々に会ったHは、悪い意味で体育会系の文化に毒されおり、とにかくがさつ。
おおらかと言うよりもノリで生きるタイプになり、自分を中心に好きなことをしゃべり散らし、「一緒にいて疲れるわ…」と何度思ったことか。

箸を止めて考える。
「何だかんだと30年も付き合いが続いてるんやなぁ」。
「我ながら不思議」。
「まぁ、ええかぁ」。
ジョッキに手を伸ばし、ビールを喉に流し込んでいると、また隣から雑音。
「この前な、仕事の休憩時間にパチスロしたら、ボロ勝ちしてな!」。
天下を取ったような顔でしゃべり続けるHを見て、「うん。やっぱり、こいつアホなんやろな」。

つづく

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