(571)コロナと俺とカレーうどん-部屋とワイシャツと私…みたいな感じで-

あれは去年(2020年)、年明けのこと。
仕事を終えた帰り、行きつけの蕎麦屋に寄って「とりあえず瓶ビールください。キリンで」。
おそらく、ビールを飲みつつ天ぷらを食ったと思う。
まぁ、ここまでの記憶は曖昧だが、ここから先のことはよく覚えている。

店主と世間話をしていると、「krmさん、実はね」。
やや神妙な面持ちで、店主が口を開いた。
「うちのお客さんでね、占い師の方がおられるんですよ」。
「はぁ」。
店主はたまにスピリチュアルな話をするタイプなので、俺は「来たな」と思った。
「先日もね、占い師の方がお見えになって、その方、今年(2020年)を占ったそうなんですよ」。
「ほぉ。で、何と?」。
「世界規模でね、今までの価値観が崩壊する1年になるそうです。ただ、それは新しい世界のスタートになる…らしいです」。
「なるほど」。

そう、俺はこの時「なるほど」と言った。
が、心の中では「はいはい。もうええって」。
正直、心霊は好きなのだが、占い、予言めいたことには少し抵抗を感じる(昔は大好きでしたよ)。
例えば、「今年は日本に天変地異が起こり、多くの被害を受ける」と予言されても、台風や地震は毎年毎年あるもので、また、仮に被害者が10万人いたとして、その数字が多いか少ないかは解釈によるだろう。
またまた仮に、大した被害が無くても「私(予言者)が念じて災厄を回避したのだ」とかね。
実証できないことだらけだ。

「もうええって」と思ってスタートした去年、2020年。
今思うと、「あの予言はコロナのことか?」。
そんな気もしてきた。
仕事に行こうにも、電車に乗ると感染の懸念があるため在宅勤務。
飲食店でゆっくり飲み食いしようにも、感染リスクがあるためお客は減り、テイクアウトに対応したお店が増えた。
外に出る際、風邪をひいているわけでもないのにマスクをするのが当たり前。
確かに、コロナ前と後の世の中は変わったと思う。

しかし、俺個人としては、日常的にマスクを着ける以外、何となくそれなりに、何となく普通に過ごしていた。
普段からロードバイクに乗って通勤する俺は、満員電車とは最初から無縁だし、休みの度にいちいち繁華街に出なくても、近所のサイクリングロードを走っていれば満たされる。
「コロナの影響?俺には無いね」。
世間と距離を置き、マイペースに過ごしていたこの時の俺は、あまりにも愚かだった。

12月13日。
いつもと変わらず近所のサイクリングロードを走る。
「あぁ、向かい風はほんまに鬱陶しいよなぁ」とか、「景色は綺麗やけど、見慣れてもうたわ」とか、そんなことを思いながらクランクを回していたのだろう。
いつも通りに。
「では、そろそろ帰ろかぁ」。
往復で20㎞ほど走り終え、川沿いの自転車専用道から一般道に上がる。
そして、家に向けて国道2号線を西へ進んだ。

と、「あれ?電気ついてへん。今日は休みか?まだ営業時間前か?」。
カレーうどんの店「まんてん」の前を通り過ぎた瞬間、違和感を抱いた。
このお店、きしめんのような平らなうどんで、甘辛いカレーとよく絡み、とても美味い。
また、途中で出汁を入れることにより風味が変わり、それも絶品だ。
が、入り口に貼られた紙には、「11月30日をもちまして閉店することとなりました」。
「え、嘘やぁん…」。

西宮市でひとり暮らしを始めたのは、15年ほど前。
当時、JR甲子園口周辺で飲んだ後「にしのみやラーメン」に寄って帰るのが定番だったが、もう年齢のせいだろうか。
ラーメンよりも蕎麦やうどんを好むようになり、駅前の立ち食い蕎麦屋の「ほてい」と2号線沿いのカレーうどん「まんてん」を重宝するようになった。
ただ残念なことに、俺の中で「最高の立ち食い蕎麦」であるほていは閉店。
何十年も営業していたお店なので、ファンは多かったと思う。
まぁ、コロナの問題よりも店主のおっちゃんがご高齢なので、それが閉店した理由だろう。
「ほていが無くなったんは痛いなぁ」。
率直にそう感じたが、「まだ俺には最後の砦がある」と思っていた「まんてん」まで閉店に。
「あぁ…」。

あの旨味を存分に感じるカレーうどんを食うことは、もうできない。
いつも「お兄ちゃん、いらっしゃーい」と俺を迎えてくれた、ほがらかな店主と会うこともできない。
11月30日、閉店する2、3週間前に訪れた際、「お兄ちゃん、仕事はどう?コロナで大変?」と聞かれたが、店主こそコロナで大変だったのだろう。

今もたまに「カレーうどん食いたいなぁ」と思うが、「まんてん」以外のカレーうどんには興味が湧かず、在りし日の「まんてん」を思い出す。

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