(572)突然訪れた、2020年最後の走り-1

12月25日は仕事納め。
時間や使命に虐げられる日々は、ひとまず終わった。
今年はコロナの影響で、ほんのちょっとした忘年会が1件だけ。
それ以外は何に縛られることもなく、自分でスケジュールを組むことができる。

そして、12月26日。
解放感に満ち溢れた朝を迎え、年末年始の休みがスタート。
では、「今日は何がしたい?」と自分に問い掛けてみよう。
「ロードバイクに乗りたい」。
「酒を飲みたい」。
OKだ。
「両方とも叶えてやるぜ」と、近所のスーパーで買ったダサいジャージを脱ぎ捨て、サイクリングジャージを纏う。
「さぁ、行こうぜ!武庫川サイクリングロードへ!」。

「かったるい毎日が終わり、気楽な日々が続く」。
そう思うと、気持ちが軽くなり、クランクを回す脚までも軽く思えた(スピードは変わらなかったが)。
いつもならムカムカする向かい風に打たれても、「あぁ、自然の香りがする…」。
逆走する自転車に対しても、普段なら「ブチ殺す」だが、この日の俺には全てを許容する精神が宿っていた。

サイクリングロードを往復し、「さてと、帰って酒飲もかぁ」。
家に向けてクランクを回していると、少し物足りない気分になった。
「たった20㎞しか走ってへんし、もうちょっと走ろうか」。
進路を変え、尼崎へ進む。
三和本通商店街の「かごもと」さんに行き、ホルモンを買って酒のあてにしたい。

3㎞ほど走った後、サドルを降りてクリートにカバーを付け、ロードを押しながら歩く。
辺りを見回すと、「今日は人が少ないなぁ。商店街」。
おかげで、かごもとでは並ばずにホルモンを買うことができ、「さぁ帰ろ」となったが…、いやいやいや、もう1軒寄っておこう。
米屋が経営する弁当屋、「弥次郎兵衛」さんでおにぎりを2つ買って帰路についた。

布団の上でゴロゴロ転がりつつ、スマートフォンで「prime video」。
映画を観ながらホルモンを食い、焼酎を飲み、おにぎりをかじり。
年末年始の休みに入った解放感からか、映画の結末を迎える前に俺は自然と眠りに落ちた。
この日のライドが年内最後になるとは、想像することもなく。

12月27日。
起きてすぐに牛乳をゴクゴクと飲む。
なかなか健康的ではあるが、実際のところ日課や習慣というわけではない。
この日だけは、朝から牛乳を飲んでおく必要があった。
と言うのも、午後から梅田に行き「ウエムラサイクルパーツ」で買い物をした後、ニンニクたっぷりの「薩摩っ子ラーメン」を食う予定でいたからだ。

阪神電車に乗って梅田に向かい、お初天神へと歩く。
ウエムラサイクルパーツでは、スマートフォンのタッチパネルに対応した冬物グローブを買いたいと思う。
入店し売場を物色すると、希望通りのグローブ(SHIMANO製)があり、それを持ってレジに進む…途中に「あ!」。
特価品コーナーだ。
「あぁ…」。
お得感を醸し出しまくった売場。
俺は「特価品」の文字に誘われ、陳列された冬物ソックス(パールイズミ製)も手に取ってレジへ。

「ええ買い物ができたわ」。
既に気持ちは満たされたが、違う。
ここからが本番だ。
行く先は北新地。
薩摩っ子ラーメンへ向かう。
歩きながら微妙な遠さにイライラしたが、「早く食いたい」「もうすぐ食える」。
高揚感も高まってきた。
無意識のうちに、俺は早足になって進んだ。

5分後、薩摩っ子ラーメンに到着。
「千円超えるけど、あの絶品チャーシュー食いまくりたいし、チャーシュー麺を注文しようか」。
「うん、今日は贅沢しよう」。
胸の高鳴りを抑えつつ入店…しようとしたところ、「あら?中、暗いなぁ」。
まさかと思ったが、「ええー!今日、休みかよ!」。
入口のドアに、年末年始の休みについて告知した紙が貼られているではないか。
「おいおいおいおい、知らんがな」。

俺は完全に不貞腐れ、電車に乗る。
気持ちとしては「家に帰ってヤケ酒や」だが、「ちょっと待てよ」。
ふと思い出した。
会社にバックパックを置きっぱなしにしている。
この休暇中、「暇やしロードに乗って旅行しよか」となる可能性があるわけで、「念の為、事務所に戻ってバックパックを持って帰ろう」となった。

うちの事務所が入る雑居ビル。
その1階にある自販機で缶コーヒーを買い、鍵を開けて事務所に入る。
誰もいない、薄暗く殺風景な部屋。
とりあえず自分の席に座り、一番下の引き出しに入れておいたバックパックを机の上に置いた後、椅子にだらっともたれて缶コーヒーの蓋を開けた。
と、「コンコン…」。
入口のドアから音がする。
「コンコンコン…」。
誰かがノックをしているようだが、たまに健康食品や事務用品の営業が来ることもあり、「無視でええかぁ」。
缶コーヒーを少し口に含み、また椅子にもたれようとした時、「コンコン…」。
「しゃあないなぁ」。
俺は椅子を引いて立ち上がった。
今になって思う。
それは間違った判断だったと。

つづく

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする