(574)突然訪れた、2020年最後の走り-3

「各テナントの水道料金と電気料金の徴収表、字を大きくして自分の方で作らせてもらいます」。
うちの事務所が入る雑居ビルの電気、水道料金を管理するおばちゃんにそう伝えた。
おばちゃんはビルの管理者でもないのに、毎月、各テナントを回り、電気メーターを測り、また各テナントに請求書を配って回り、受け取った料金をビルの口座に入金。
何の得にもならないのに、ビルのために貢献してくれている。
ならば、おばちゃんの老眼では見えない徴収表の文字を大きくするぐらい、俺の方で対応させて頂こうではないか。

「表の左から、各部屋の『所有権者名』、『持分』、『徴収対象者又は店舗名』と、『共益費』などの項目がずらずらと記載されていますが、これを大きくすればいいんですよね?」。
おばちゃんの目を見て、俺はそう言った。
と、「それがねぇ」。
おばちゃんが口を開く。
「前の表はB4だったでしょう?字が小さくて読めないから、さっき、コンビニの店員さんに言ってね、元のB4をA3に拡大してもらったんですよ」。
「はぁ」。
「それがこれなんです」。
手渡されたA3の用紙を開くと、確かに今までのものよりかは字が大きい。
俺は「な~んや」だ。
好きな時間にロードバイクに乗って、好きな時間に酒を飲む。
そんな年末年始の休暇を犠牲にしてまでおばちゃんに協力しようと思ったが、「な~んや。問題解決か」。
一礼して事務所に戻ろう…としたところ、「それがねぇ」。
「はぁ」。
「A3に拡大しても、字が見えないんですよぉ」。
結局、俺の方で対応することになった。
脱力感を覚えた後に、またテンションを上げていくには少々苦労したが、「俺なりに貢献させてもらおう。おばちゃんに。ビルに」。

パソコンに向かい、20件以上ある部屋の所有権者とそれぞれの店舗名、電気、水道の基本料金を入力。
「仕事でもないのに、ほんまに面倒やで」と心の中で何度も文句を言いつつ、表の大枠は完成。
「今日はこんなもんでええやろ」。
以上、12月28日のこと。

12月29日。
本来なら余裕で休暇中だが、またパソコンに向き合い、表の微調整を繰り返す。
「理論上、文字は元の倍近い大きさになっているはず」。
画面を見詰めてそう思ったが、プリントアウトしないといまいち実感が掴めない。
「事務所にはA3の用紙があれへんみたいやし、買いに行こかぁ」。
ただ、わざわざ梅田や三ノ宮まで買いに行くのに抵抗を感る。
と言うわけで、近場で売っていそうな店、100均や電気屋を回ったところ、どこにも売っていなかった。
「しゃーないなぁ」。
飲み屋に寄って、帰宅。

12月30日。
誰もいない事務所で、自分の席に着く。
「A3用紙、どうしようかなぁ」と悩んでいると、そもそも事務所のプリンターがA3に対応していない。
そんな初歩的なことに今さら気付いた。
「う~ん、じゃあ、コンビニで印刷しようかぁ」。
「昨日、A3用紙を求めて歩き回ったんは、いったい何やったんや?」。
やる気を無くし、飲み屋に寄って帰宅。

12月31日。
Excelで作成した表をPDF化した後、コンビニで印刷。
「う~ん」。
間違いなく字は大きくなっている。
ただ、字を大きくしたせいで、電気水道料金の未収金や徴収額(1月~12月分)など、おばちゃんが記入する欄が狭まったように思える。
「修正が必要やな」。
またパソコンと向き合った。

年が明け、1月2日。
昼間は新年初のライド。
表に振り回され、ロードに乗ったのは久々。
1時間ほどかけて武庫川サイクリングロードを1往復し、そのまま事務所へ。
そして、USBメモリに最新版の表をコピーしコンビニで印刷。
「コンコン…」。
一度見てもらおうとおばちゃんの店をノックしたが、おばちゃんは正月休みに入っていた。

1月3日。
「よくよく考えてみると、まだ改善の余地があるのではないか?」。
そう思い、パソコンと向き合う。
無駄に長ったらしい店名を略称とし、※印を付加。
※の正式名称を表の外に記載することで全体的にすっきした気もするし、字を大きくすることもできた。
「完璧やな」と思ったが、おばちゃんは正月休み…。

1月4日。
おばちゃんは正月休み。
今一度、俺なりに最高のものを作ろうとパソコンに向かったが、悩む。
そもそもだ。
おばちゃんは、「今の表では字が小さいから大きくしてほしい」と依頼してきたわけだが、フォントサイズが何以上なら読めるのだろうか?
何を基準に大きいのか?
また、小さいのか?
そんな感覚的なこと、俺にわかるわけがない。

1月5日。
おばちゃんが出勤していることを確認し、やけくそだ。
最新版の表をコンビニで印刷。
それを持って「ちょっといいですか?電気水道料金徴収表の件で」。
「はい」。
「自分の方で作ってみました。字は大きくしましたが、記入欄が少し小さくなりまして…」。
「う~ん」。
おばちゃんは、俺が差し出したA3用紙に目をやり、却下。
俺は引っ繰り返りそうになった。

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