(144)ロードバイクと彼女がいた、過ぎ去った日々。-2

今はどこで何をしているかわからない彼女。
付き合っていた頃、LINEやメールに、自分が作った料理の写真がよく添付されていた。
「こんなの作ったよー」
「お、うまそー!」
といったやり取りを、彼女は期待していたのだと思う。
その度に俺は、既視感のようなものを覚えた。

彼女と付き合う、更に昔のことだ。
社会人になって数年した俺は、ある時期、ちょっとした知り合いの女子大生と、たまに遊んでいた。
その子からは、いつも、俺の仕事が終わるぐらいの時間にメールが入る。
そして、仕事に疲れ果てた俺は、帰り電車の中で、ぐったりとそれを読む。
内容は、芸能人の話や日常のどうでもいい話が中心だったと思うが、まれに自分が作った料理の写真が添付されていた。
確か、その子はなかなか複雑な環境で暮らしていて、家族のご飯を用意してから、学校やバイトに行く毎日を送っていたと思う。

ある日のメールには、「今日はこんなの作ったよー」と、その子が作ったツナ丼の写真が添付されていた。
「ツナ丼だよー。おいしかったよー」と(←正確には、こんな口調ではない)。
写真を見る俺。
「…」
目をつぶり、何とも言えない気分になる俺。
「…」
気を取り直して、もう一度、まじまじと携帯の画面を、ツナ丼の写真を見る俺。
ご飯の上にシーチキンが乗っけられ、その上にマヨネーズが少しかかっている。
「こんなもん、俺でも作れるわーー!」と叫びそうになったが、電車の中なのでこらえた。

冷静になろう。
ストレートな感情をメールに乗せて、その子に届けるわけにはいかない。
鬼と思われる。
「こんなうまそうなツナ丼、初めて見たよ!店で出しても、1万ぐらい金取れるよ!」と返した場合、嫌味にとられそうな気もするし、よく考えてみると、俺はツナ丼を食ったことも無ければ、見たことも無い。
「とにかく、ここは下手なことを言わず、自然に、簡単に返そう」と、「うまそうやね」と返事した。
スマートなひとりの男性として。

それにしても、この女子大生や、数年前に付き合っていた彼女に限った話ではないが、自分が作った料理の写真を送ってくる意図は、一体、何なのだろうか?
男の俺としては、どうも不思議な感じがして、どうも理解ができないのだが、それでも努力して、俺なりに考えてみた。
結論として、正解かどうかはわからないが、「自分を理解してほしい」という心理が働いているのではないかと思う。

そう、「自分を理解してほしい」という心理。
仮にそれが正解と仮定した場合、俺は、彼女たちに「自分を理解してほしい」と思ってもらえる立場にいることになる。
それはそれで素直に嬉しい。
よし、俺も「自分を理解してほしい」という気持ちを彼女に届け、喜んでもらおう。
「OK!自分をさらけ出そうぜ!」

俺は、彼女にロードバイクの写真を送ることにした。

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