(895)酒とサイクリングを天秤に掛ける-1

2月のある日、取引先に呼び出され、大阪へ向かった。
用件は事前に聞いていたため、「これは夕方までかかる話やなぁ…」と、長い長い打ち合わせを覚悟していたが、たったの20分で終了。
拍子抜けもいいところだ。
見えないところで、俺がどれだけの資料を用意し、話のネタを繰ったか…。
悔しい…。

悔しい…。
悔しい…。
いや、ちょっと待てよ。
「簡単に話が丸く収まったんや。万々歳やで」
そう思うのが普通だ。
梅田の地下街を歩きながら、急に喜びが込み上げてきた。

さて、ジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出し、時間を確認する。
「14時前かぁ。昼飯食って帰ろか」

ここでひとつ言っておく。
一応言っておく。
念のために言っておく。
今回の話は、仕事上がりにひとりで飯を食いながら、心と対話する…わけだが、何も「孤独のグルメ」を意識しているわけではない。
しかも、面白い話でもなければ、味わい深い話でもない。
いつも通り、どうでもいい話だ。
以上。

「何か美味そうな店、あれへんか?」
辺りを見回しながら、ゆっくりと歩く。
ひとりしゃぶしゃぶの店に餃子屋、串カツ屋。
さすが、梅田の地下街。
どれもこれも魅力的で、決めるのが難しい。
と、1軒の店が視界に入った。
「おっ、『正起屋』かぁ」

「正起屋」とは、大阪を中心に展開している焼鳥屋。
確か、百貨店にも入っていたような。
まぁ、それはそれとして、正起屋のWHITY梅田店にはちょっとした思い入れがある。
「ひとりで飲み屋に入るん、抵抗あるわぁ…」
そう感じていた20代の俺にとって、こことおでんの「たこ梅」は入りやすく、随分と重宝したものだ。
「うん、久々に入ってみよかぁ」

「いらっしゃいませ」と、おばちゃん店員。
アクリルパーティションで区切られたテーブルへ案内してもらい、俺はメニューに目を通す。
「う~ん」
悩ましい。
「串、揚げ物、一品」と「定食」のカテゴリーに分けられたメニュー。
「う~ん」

当初、俺は定食を食べるつもりでいた。
食べた後、直帰し、近所のサイクリングロードを走る予定でいた。
しかし、一品メニュー「きもの旨煮」が気になる。
肝が大好きな俺にとって、魅力の塊に思える。
ただ、「こんなもん注文した日にゃ、間違い無くビール飲みたくなるよな」だ。
酒を飲むと、帰ってからロードバイクには乗れない。
サイクリングできない。
参った。

「酒」と「サイクリング」を天秤に掛ける。
もしも…だ。
「酒」を選んだ場合、飲んでいる時間は心が満たされるだろう。
ただ、他に何も残らない。
「サイクリング」を選んだ場合は、自分の中でアスリートとしての面子が保たれる(レースに出たこと無いけど)。
アスリートとしてのプライドが守られる(レースに出たこと無いけど)。
しかし…だ。
何の役にも立たないが、俺には酒飲みとしての誇りもある。
よし。
「すみません。『きもの旨煮』と『瓶ビール』をお願いします」

つづく

にほんブログ村 自転車ブログ ロードバイクへ
にほんブログ村

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする