(998)ロードバイクには乗らず、友ヶ島を歩く~顔の傷~

第3砲台と弾薬支庫をうろつき、「そろそろ行こかぁ」。
煉瓦造りのトンネルをくぐると、広場に出た。
先ほどまで、地下施設や鬱蒼とした木々の中にいたせいか、日光が煩わしい。
また、耳元で「プーン」。
蚊の飛ぶ音も煩わしい。
顔の前で、横で、手を振り回して払う。

と、視界の隅に煙草屋…ではなく、廃屋。
「何やろ?」
手をパタパタしながら近付き、中を覗く。
戸は無く、床には雑草。
「無茶苦茶な状態やなぁ」
「もともと、何の施設やったんやろか?」
ボロボロの窓にぶら下がる看板を目を移す。
「将校宿舎跡 本島駐とん将兵が生活した宿舎が今も島内各所に一部残っていますが、この建物も将校宿舎でした。建物内部は純日本式間取りとなっており当時の将校達の憩いの場でありました」
なるほど。
頷きつつ、中で将棋を指したり酒を飲む将校を想像する。
「結構、楽しそうやなぁ」
自然と頬が緩んだ。

観光はここで終わり。
後は、野柰浦桟橋からフェリーに乗って帰るのみ。
というわけで、桟橋へと山道を下り始めたが、「勘弁してくれよ…」と思う。
相変わらず、その辺に石が転がりまくり、俺の傷んだ靴で踏んでしまうと、足の裏が痛い。
また、とにかく暑い。
暑すぎる。
更に…だ。
頬に違和感。

ボリボリ…。
ボリボリ…。
歩きながら頬を掻く。
先ほど、蚊に刺されたのか。
ボリボリ…。
ボリボリ…。
気になって気になって仕方が無い。

と、指先が赤く染まっていることに気付いた。
「あ、掻きまくったせいで、血が出たかぁ…」
参った。
これは参った。
普段の生活において、俺は世間から注目されていない。
芸能人ではないため、当たり前と言えば当たり前だ。
ただ、経験上、顔に傷が付いたり絆創膏を貼っていると、「それ、どうしたんですか?」。
会う人会う人から聞かれる。
その度に、いちいち説明するのが面倒くさい。
鬱屈しい。
「実は8月3日にですねぇ、釣り好きの人と加太に行きまして。まぁ、自分は釣りをしないので、フェリーに乗って友ヶ島を観光しまして。まぁ、砲台が残る無人島なんですけどね。で、山道を歩いて砲台跡を見て回ってるとですね、蚊に刺されましてねぇ。なんか気になって掻いてると、血が出て傷に…って感じですわ。ま、すぐ治ると思います」
こんなどうでもいい話を、何度も何度も説明することになるのだ。
参った。
本当に参った。

歩きながら考える。
「ここ1週間で会う予定の人、何人ぐらいおるやろ?」
仕事関係の人、飲み友達、昔からの友人。
ぱっと思い付いただけで約20人。
「20回もせなあかんのか!?」
「実は8月3日にねぇ…のくだりを」
面倒くさいどころの騒ぎではない。
頬のしょうもない傷の話を、20回も語る労力と時間。
明らかに無駄。
無駄でしかない。
聞いた側も、「ふ~ん」だろう。
どうせなら、キャプテンハーロックみたいな傷を付けたかった。
そして、派手な話を語りたかった。

思い悩みながら下っていると、海。
桟橋も見える。
「あぁ、もう歩かんでええわぁ」
急に酒が飲みたくなった。

つづく

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