(201)挨拶は大事-1

仕事帰り、甲子園球場近くの王将で飯を食い、ハイボールを1杯飲んで、ほろ酔い気分で家まで歩いた。
8月7日のことだったと思う。

阪神電車の高架沿いをふらふらしていると、旅館の入口が見える。
俺は、近所に住んでいるで、その旅館を利用する機会はないが、春や夏になると、高校球児の宿舎になることは知っていた。
辺りは暗くてよくわからなかったが、小柄ながらも筋肉質で、坊主頭の男子ふたりが目に入る。
何か小声で話しているようだ。
すれ違っただけなので、正確には聞き取れなかったが、「荷物がなかなか来ない」というような会話かと思う。
その時、ひとりの坊主頭の子が俺に気付き、「こんばんは!」と挨拶をした。
俺も「こんばんは!」と挨拶を返す。
もうひとりの子も「こんばんは!」。
俺も「こんばんは!」。

彼らに頭を上げ、2~3m歩くと、右手に旅館の駐車場が見えた。
これまた暗くて、正確ではないが、マイクロバスから荷物を出す3~4人の坊主頭。
ひとりが、俺に気付くなり、「こんばんは!」。
俺も「こんばんは!」。
それを人数分繰り返し、俺はふらふらと家に向かって歩く。
気持ちがとても優しくなり、心がとても洗われた感覚で。

日が明け、出勤の準備をしている時も、彼らのさわやかさや礼儀正しさが、余韻として俺の中に残っていた。
「おそらく、彼らは下級生やな。背もそんなに高くなかったし、雑用してチームに貢献してるんやろう」。
「そういうことやな。てことは、彼らが甲子園の土を踏んでプレーするのは、来年か?再来年?」。
「わからへん。素直な気持ちで、彼らが活躍する姿を応援をしたいけど、そもそも、どこの高校かもわかれへん。聞いといたらよかった!」。
俺は、自分の精神世界に住むもうひとりの俺と会話しながら、準備を終え、家を出た。

クソ暑い中、コンビニで買ったフェイスタオルで、顔や首筋を拭きながら歩く。
「会社に行くん、かったるいなぁ」と思ったが、ふと、頭をよぎるのは昨日の高校球児。
「彼らを見習って、俺もフレッシュに行こう」。

俺は大阪出身なので、子供の頃から大阪代表校の活躍に、心を躍らせていた。
桑田選手(巨人→Mattの親)、清原選手(西武→巨人→オリックス→覚醒剤)のPL学園。
その2年後、立浪選手(中日)、片岡選手(日ハム→阪神)、野村選手(横浜)、橋本選手(巨人→ダイエー)のPL学園。
元木選手(巨人)、種田選手(中日→横浜→西武?→住所不定)の上宮。
寺前選手(近鉄)の北陽。
萩原選手(阪神)の大阪桐蔭。
数え上げたらきりがないほど、大阪には名選手と名門校があり、俺は、テレビは勿論、電車で甲子園まで行き、生観戦することもあった。

だが、自分が高校に入ると高校野球への興味が失せる。
切っ掛けは、野球部。
うちの高校は、スポーツ科があり、野球にも熱心だったと思う(俺が卒業してから、春の選抜に出場した)。
ある日の昼休み。
食堂に行き、相席のテーブルで友人と飯を食っていると、知らん坊主頭2人が、俺の向かいに座った。
ふと、バッジが目に入り、「あぁ、スポーツ科の野球部か」。
特に気にもせず、俺は斜め前と横に座っている友人と世間話をしながら、天きつ玉子(全部入りのうどん)を舌にのせる。
と、前から野球部の会話が耳に入った。
「ほんま、最悪やで。めちゃめちゃやで」。
「何がやねん?」。
「あいつ、ほんまめちゃめちゃやねん」。
妙に興味を引く。
俺は、野球部の話に聞き耳を立てた。
「さっきの授業でな、俺、寝てたんや」。
「ほう、そんでそんで」。
「じゃあな、前に座ってる××がな、俺の頭に、ボールペンで『アホ』って書きよってん」。
気になって気になって仕方がない。
ちらっと、丼に顔を埋める野球部の坊主頭に目を向ける。
と、本当に、頭皮に「アホ」とカタカナで書かれていた。
「こいつら、正真正銘のアホなんやな」と思った。
存在自体が気持ち悪く感じた。
以来、俺は高校野球に対する興味が失せた。
予選の試合前日に、「応援に行け」と担任の教師に言われたが、「死んでも行くか」と素直に思った。
「そんなもん、人生の無駄」とも。
正直、がさつなアホを応援する気にはなれない。
高校を卒業してから真面目に高校野球を観たのは、松坂選手擁する横浜vsPL学園ぐらいだ。

そういった、高校野球に対するマイナスイメージを払拭してくれた、昨日の高校球児。
見知らぬ人にも挨拶をする、礼儀正しい高校球児。
「挨拶はイメージを一変する」と心底感じた。
挨拶は大事だ。
が、「俺は普段から、人様に対してちゃんと挨拶をしているのか?」と、自分に矢印を向けてみると、仕事関係では、それなりにしていると思う。
100点ではないが、65点ぐらいはあるだろう。
まぁ、それはいい。
それより、サイクリング中の俺。
サイクリング中の、俺の挨拶。
自分に矢印を向けて、考えてみた。

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