(1)「趣味は自転車に乗ることです」と答える前の俺を見た。

隣のテーブルを見て、「お前ら、さすがに太りすぎやろ?」と声を上げそうになった。

深夜、あるラーメン屋を訪れた時のことである。
その日、日付が変わるちょっと前、仕事を終えた友人Nさんに車を出してもらい、神戸に向かった。
神戸の人なら誰でも知っているであろう有名なラーメン屋。
その本店を目がけて。

以前、うちの近所に支店があったのだが、正直、ラーメンは俺の口にはあわず、印象としては「ラーメンより唐揚げがうまい店」だ。
「本店なら同じラーメンでも格段にうまいかも?」と、俺は淡い期待を寄せる。

Nさんと世間話をしつつ、注文したラーメンを待っている間、ふと隣のテーブルが目に入った。
そこには、目を疑うほどの肥満体、肉の塊のような3人が、必死で、鬼の形相でラーメンを食っているではないか。
あまりにも太り過ぎの彼らが座ったことで、ゆったり目の4人掛けテーブルが小さく見える。
昔、初めてプロレスを生観戦した時、テレビとは違い、リングが小さく、そして選手の体が大きく感じたが、そんな懐かしい思い出がよみがえってくる。

見る限り、彼ら3人には、徹夜で対応しなくてはいけない仕事があるのだろう。
皺の入ったくたびれたワイシャツを着、ズボンのベルトをゆるめ、ラーメンをかっくらう。
その姿を見て、俺は思い出した。
「過去の俺も同類だった」と。

仕事柄、朝から晩までパソコンの前に座り、終電で帰る日々。
常に時間が気になり、生きた心地がしない。
「今日はなんとか終電より1本でも早い電車に乗れるように頑張ろう。その分、睡眠時間が10分でも増えるんだ」と自分を鼓舞するが、それが叶わない現実。
努力が報われない現実。
週に1度の貴重な休みは、溜まった洗濯物を洗った後、余った時間で納得いくまで飲む。
そして、食う。
わざわざ隣町の焼き鳥屋まで行き、たらふく飲み食いした後に、駅前のモスバーガーに寄ってハンバーガーをテイクアウト。
家に着いたら、それを食い、また酒を飲む。
そして横になり、気づけば月曜の朝。
出勤。

納期が近付くと、終電で帰ることも困難な日々が続く。
徹夜を決心すると、深夜営業している飲食店で腹ごしらえだ。
ベルトをゆるめ、ワイシャツのウエスト部分に入った皺を見て、「だらしない」と自覚するが、そんなことはどうでもいい。
ただひたすら、ラーメンをかっくらう。
そんな日常を繰り返し、167cmの俺の体はブクブク太り、82kgに到達した。

視界の隅にある肉の塊3体と比べると、過去の俺はいかんせん小振りではあったが、デブはデブだ。
「見栄えが悪い。健康にもよくない」と太るデメリットを理解していながら、「仕事柄、仕方がないんだ。環境のせいなんだ」と他人にも俺自身にも言い訳をしていた。
でも、本当のことを言うと、本心を言うと、俺は痩せるきっかけを探していた。
「もうあの頃の体に戻りたくない」と、今、強く思う。

Nさんとの世間話が耳に入ってこない。
わざわざ車で神戸まで来たのに、ラーメンの味などどうでもよくなった。

※この記事は、2019年1月16日、俺が別のブログに投稿した文章を、加筆、修正したものです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする