(186)高2の夏、大阪の街を走り回った。~教訓と風俗店の兄ちゃん~

自転車で某百貨店の中元を配達するバイト。
高2の俺。
夏休みに入り、バイト先に出勤する。
初対面の小太りで感じが悪い社員から、伝票の束とビニールのファイルに入れられた地図を手渡された。
伝票に書かれた住所を確認し、ひとつひとつ地図(を挟むビニールのファイル上)に、水性ペンで目印をつける。
目印を付け終わったら、目印の位置を繋ぎ、効率的に配達できるルートを水性ペンで引く。

徐々に、仕事の流れがわかってきた。
伝票の番号を見て、同じ番号の荷物を抱える。
そして、愛車となるボロ自転車(三輪)の荷台に積む。
面接をしてくれた、どうも責任者らしいおっさんに「行ってきます」と声を掛け、俺はペダルに足を置いた。
踏む。
めちゃめちゃ重い。
しかも、真っ直ぐ進まない。
ハンドルを、気持ち左にすると、なんとなく真っ直ぐに走っている気がするが、「乗りこなすのは経験が必要やな」と、先が思いやられた。

初めて俺ひとりで配達した先は、裏通りのこじんまりした、2階建ての会社だった。
白のシャツに紺のスカート。
会社の制服を着た、事務の人らしいおばちゃんに、荷物をふたつ渡し、判子をもらった。
「できた。俺はできる男や」と自信を持ち、その後も自転車をこぐのは必死だが、荷物を渡しサインか判子をもらうのは余裕でこなし、会社に戻った。
「お客さんから電話があったわ」。
小太り社員が、俺に詰め寄る。
「荷物、ふたつ渡したお客さん、いたやろ?」。
「はい。心当たりがあります」。
「荷物がふたつあったらなぁ、伝票もふたつあるんや。君、ふたつの伝票にサインか判子もらったか?」。
「しまった」と思った。
忘れてた。
ひとつの伝票にしかもらってない。
「そういうのされると、困るんですよ!」と、小太りブチ切れ。
確かに、小太りの言う通りだ。
だが、今の俺にどうしろと言うのか。
「ほな、もう1回行って、サインもらってない伝票にサインもらいます」と、俺なりの責任の取り方を提示したが、後に俺が配達しなければいけない荷物がつまってるらしく、その件はうやむやになった。
ただ、「荷物がふたつの時は、伝票はふたつ、サインもふたつ」と、俺には教訓になった。
「次から気を付けよう」。

また地図と伝票の束をもらい、ボロ机に座って住所とルートの確認。
荷物を荷台に積み、ボロ自転車(三輪)に乗って配達。
今では、外国人観光客に人気があるらしい、黒門市場周辺を走る。
が、途中、「どうもおかしい」と思う。
自分が今どこにいるのかわからなくなった。
キョロキョロしながら、「冷静になろう」と自分に言い聞かす。
その時、白のカッターシャツに黒のベストを着た兄ちゃんが、「何か困ってるん?」と俺に声をかけた。
「あ、この兄ちゃん、さっき通り過ぎた風俗店の入口で立ってた人やわ」。
まだ明るい時間帯だったので、暇だったのだろうか。
「どこ行きたいん?」と、兄ちゃんは気さくに聞いてくれる。
地図を見せ、「ここに行きたいんですけど、俺、今、自分がどこにいるんかわからないんですわぁ」と言うと、「そこやったら、次の角を左に曲がって、ちょっと言ったらええわ。煙草屋の向かい辺りやで」。
「兄ちゃん、ありがとう」と言い、頭を下げ、ペダルを踏んだ。
研修の時の兄ちゃん同様、その風俗店の親切な兄ちゃんとも、二度と会う機会は無いが、俺の心の中では、今でも感謝の気持ちがある。

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