(187)高2の夏、大阪の街を走り回った。~海賊ラーメン~

担当分の配達が終わり、会社に戻る。
ボロ倉庫の1階にある荷物置き場の脇にボロ自転車を止め、2階のボロ事務所に上がり、社員に「行ってきました~」と報告。
「お疲れさん。そやそや、まだお前には教えてなかったな。ちょっと来い」と、眼鏡の社員。
事務所の隅っこにある冷蔵庫の前で足を止め、「開けてみぃ」。
「はい」。
冷蔵庫の中には、コカ・コーラでもなくペプシコーラでもない、小さいサイズのパチもん臭いコーラが大量に入っていた。
「飲みたい時に飲んでくれたらええ。ディスカウントストアで買ってきた安物や。ただ、1本飲んだら30円でええから、そこにある貯金箱に金入れてな」。
「はい」と答えたが、バイトを辞めるまで、1本も飲まなかった。
嫌な予感しかしないので。

真っ直ぐに走らない、ボロ自転車の荷台に荷物を積み、ミナミを中心に、また配達に向かう。
配達先は、会社も多かったが、お店もあった。
伝票を確認し、「次は金さんに受け取ってもらったらええんやな」と、金さんの住所に向かったところ、そこは商店街の中のパチンコ屋。
「俺、汚い格好してるし、荷物持ってお店に入ってええんかな?」と悩んだが、業者や従業員専用の入口を探すのも面倒なので、荷物を持って店に入った。
「×××番台、ラッキースタート」とマイクを持ってアナウンスする兄ちゃんが目に入り、挨拶して判子を要求。
気軽に対応してもらい、ボロ自転車に乗って、千日前通りを走って帰る。
途中、日本橋から谷九の間、高速の下辺りに、「海賊ラーメン」というお店がある。
「名前からして、ワイルドなもん食わせてくれそうやな」と、少し気になった。
この時、海賊ラーメンが、俺のラーメン人生をスタートさせる切っ掛けになるとは、思いもしなかった。

会社に戻り、「行ってきました」と報告。
「おう、ご苦労さん。お前、休憩とってええぞ。飯食ってこい。休憩してからな、また頑張ってくれな」と、眼鏡の社員。
昼飯を食おうにも、社員食堂があるわけではなく、このバイトを紹介してくれた、クラスメートのOとは、配達のサイクルが違うので、会うこともない。
「ひとりで外で飯食おうか」。
海賊ラーメンに、自然と足が向かった。

ガラガラと引き戸を開けて、入店。
店員は、プロレスラーのようなごつい体の兄ちゃんが、ひとり。
短髪で、何故か半ギレの目付き。
「こわっ」。
引き戸を閉めて帰ることを一瞬考えたが、意を決してカウンターに座る。
客も、俺ひとり。
メニューに目を通し、「海賊チャーシュー」と怖い店員に声をかける。
「あいよ」。
厨房から、何かを炒めてる音がする。
「俺、自分で金出してラーメン食うん、初めてやなぁ」。
「ラーメン1杯900円は、まぁまぁの出費やなぁ」。
そんなことを考えていると、目の前にラーメンが出された。
炒められた野菜が鉢を埋め尽くすラーメン。
ベースは豚骨ラーメンだが、ピリ辛の野菜炒めが上に乗っている。
更に、チャーシューのトロトロさ加減が絶品。
「うまい…、うますぎる!」。

17歳の夏休み。
それまでの俺は、有り難がってラーメンを食ったことがない。
「ラーメンなんか、カップラーメンでええ」と考えいたが、俺はあまりにも世間知らずだった。
「店で食うラーメンが、こんなにうまいなんて!」。
「こんなに個性的でうまいラーメンがあるなんて!」。
俺にとって、人生観が変わった瞬間だった。

1杯のラーメンに、心が張り裂けそうな感動を覚え、動揺しながらも会社に戻る。
2階の事務所に入り、「休憩、行ってきましたー」と報告すると、「どこで食ってきてん?」と眼鏡の社員。
「はぁ、そこの大通りのとこ、高速の下にある、海賊ラーメン行ってきました」。
「何?お前、あそこ行ったんか?ちょっと高かったやろ?」。
「それにしてもお前は、ええ身分やなぁ。俺らなんかなぁ、ディスカウントストアで買ってきたカップヌードル食ってんねんぞ!」。
言葉はややきつめだが、目は笑っている眼鏡の社員。
その横で、いつも小言を言う小太りの社員も笑っていた。
俺は、彼らの笑顔を目の当たりにして、距離が一気に縮まった気がした。

ちなみに、海賊ラーメンは、今はもう無い。
俺にとって特別なラーメン屋だったが、いつの間にか無くなっていた。

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