(193)高知を走る~安芸~

スマートフォンで地図を確認し、ホテルの場所まで来たのはいいが、俺は佇むしかなかった。
「ホテル?これは、どう見てもパチンコ屋やんけ…」。
落ち着いて、もう一度地図を確認。
目の前にあるのは、紛れもなくパチンコ屋だ。
「とりあえず、この辺りを一周してホテルを探そう」と、サドルにまたがり少し移動すると、パチンコ屋の脇にホテルの入口が見えた。
「ややこしいねん!」。
「ロードバイクをひっくり返し、ホイールを外して輪行バッグに収納しよう」とは思うのだが、疲れのせいで動きたくない。
何もしたくない心境。
何をするわけでもなく、ホテルの入口の前でだらだらする俺。

10分後。
「早くチェックインして、飲み屋に行こう」と、意を決して、ロードを収納し、チェックイン。
シャワーを浴びてホテルから出たが、飲み屋を探すのが面倒くさい気もする。
「ホテルのレストランでええか」と考えたが、どうも、俺がチェックインするのと同時にラストオーダーの時間になってしまったようだ。
では、街に繰り出すか?
いやいや、ビンディングシューズを履いているので、あまり歩きたくない。
足も痛いし。
そこで、助け舟が出た。
ちょうど、信号を渡ったところに八剣伝があるではないか。
「わざわざ高知まで来て、チェーン店はないやろ?」と自分に問い掛けたが、「とにかく歩きたくない。足を使いたくない」との思いが勝った。

お客さんは少なかった。
唯一いた客、奥のテーブルに座りワイワイ騒いでいる地元の人(?)の声が、居酒屋らしい雰囲気を醸し出していた。
俺はカウンターの端に座り、メニューを広げる。
「創作系の焼き鳥か。安芸店限定メニュー?」。
テンションが上がる自分に気付く。
「なかなか、食欲をそそってくれるね」。
特に、「これはやばい。毎日食いたい」と思ったのが、焼きおにぎり。
醤油バターや味噌など、俺はかぶりつくように食った。
「チェーン店を馬鹿にしてごめんなさい。最高でした」と店主にアイコンタクトをとり、店を出る。
信号を渡り、ホテルの中の自販機で、翌朝飲む用の缶コーヒーを買い、ベッドに入った。

朝からの困難なロングライドを思い出すと、さらに疲れが増した。
そして、眠りについた数分後、Nさんからメール。
「今、Tさんが、高速バスに乗って、鳴門に着きました」。
Tさんとは、以前、自転車で明石まで走り、明石焼きを一緒に食べた人だ。
半眠りの俺は、「Tさんも鳴門に鯛を釣りに来たんか」ぐらいにしか思わなかった。
正直言って、他人事だ。
「それで、明日の予定なんですが、Tさんは午後8時には西宮市に帰らないといけないので、それに合わせて予定を組んで下さいね」とのこと。
さらに、「釣りが終わってから、徳島の中田でラーメンを食うので、ご一緒に」だと!?
翌日のスケジュールを練り直さなくてはいけない。
参った…。

今回、旅に出る前、Nさんは、「帰る日、鳴門に着くのは、夜でもいいですよ。待ってますからね」と言ってくれた。
その言葉に甘え、俺は、もともと、翌朝10時にホテルをチェックアウトし、のんびりと150㎞走り、夕方か夜に、鳴門へ着く予定でいたのだ。
来た道なので、道に迷うこともない。
今日のように、雨も降らず天気も良いはず。
「何の問題も無い」。
そう思っていた。
ところが、急にTさんが参戦し、Tさんの予定に合わせなくてはいけなくなったため、俺は大打撃を受ける。
血管がぶち切れそうになった。
「ほんま、いちいち人騒がせな人やな」と思いながら、翌日の予定を立て直さなくてはいけない。
「寝てる場合、ちゃうやんけ!」。
俺は、缶コーヒーを飲んだ。

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