(196)高知を走る~ヘビトンボ~

自然と人工の割合が、99対1ぐらいではないだろうか。
昔から建っているような、趣のある家屋をぽつぽつと目にしたが、あとは橋と舗装道路ぐらいだろう。
人手が加わったものは。
あまりに自然豊かな北川村。

登りと平坦を繰り返し、俺は進んだ。
空気が、徐々にひんやりしてきた気がする。
更に進むと、何故か路面が湿っている。
スリップに気を付けながらクランクを回す。
と、俺が通る直前に、路面に張り付いた虫が羽を広げ、パタパタと飛んだ。
また少し進むと、虫がパタパタ。
またまた虫。
「何匹おるねん?蝶か?蛾?なんか違うような」。
虫を目にするたびに、気になって気になって仕方がなくなってきた。
俺は足を止め、ロードバイクから降りる。
「観察しよ」と思いながら、ゆっくりと虫に近付く。
「あ、これはあかんわ!」。
一目見て、そう思った。
そして、道路の横を流れる川に視線を向けた。
この虫は、見ていてあまり気持ちがいいものではない。
子供の頃、図鑑か何かで見たような気もするが、実際に生で見たのは初めてだ。
ヘビトンボ。

ヘビトンボが集う道から、一刻も早く逃れようと、ダンシングで突っ走る。
車などほとんど走っていない山の中なので、まわりを気にせず大胆に走ったが、おかげですぐにくたびれた。
道の端で休憩しながら川を見ると、流れているのは澄んだ綺麗な水。
「なるほど。ここには、ヘビトンボが育つ環境が整っているな」。
妙に感心する俺。
別の方向に視線を移すと、360度、大自然。
その中に、1基の橋が見えた。
グレーのTシャツを着た、ぽっちゃりしたおばちゃんが歩いている。
久しぶりに人を見た気がする。

「もう、かなり登ったし、そろそろ下りやろ」と思いながら進むと、きつめの登りが俺を待ち受けていた。
「勘弁してくれよ」。
独り言をつぶやき、山を越えるまでの距離を確認しようと、スマートフォンで地図を見る。
が、「圏外」。
自分が今、秘境でサイクリングしていることを自覚した瞬間だった。

汗だく。
脚も痛い。
鼻炎で、呼吸も辛い。
本気で「死ぬか」と思いながら登りきった先には、ちょっとした広場があった。
自販機にトイレ。
久しぶりに文明を感じた気がしたが、「今度こそ、後は下りだ」と思うと、俺は解放感に包まれた。
脚を休めながらも加速する感動に打ち震え、ガンガン下る。
が、落ち葉の清掃をしている職員がちらほらいたので、お互い怪我をしないよう、ブレーキをかけながら麓に向かった。

田んぼや畑に囲まれた、のどかな景色の中を走ると、突き当たりに海が見えてきた。
海沿いの道。
往路に走った道だ。
あとは、少し北に向かって走ればいい。
そこに、甲浦という駅があるのだ。
甲浦駅まで行けば、電車に乗れる。
Nさん、Tさんとの待ち合わせ場所、中田に行ける。
彼らのスケジュールを狂わすこともなく。
また、俺個人としても、「体を酷使するのは、もう終わった」、「俺の旅は、ここで終わった」。
そんな気持ちになり、達成感と得ると同時に、脱力感におそわれた。

往路とは逆に、右手に海、左手に山をながめながら脚を回す。
甲浦駅までの距離は知れているし、大嫌いな登りも無い平坦路。
「はっきり言ってイージーモード」と思いきや、自販機が見当たらない。
「喉が渇いたわぁ」と、自販機を探しても、どこにも無い。
水分補給できない不安に怯える。
それから先、俺が見た景色は、少しの家屋と山と海。
そして道が続くだけだった。

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