(307)ロードで行く和歌山旅行~最後のコンビニ~

日が暮れた。
完璧に。

暗闇の霊園を歩き回り、墓参りする度胸は、はっきり言って俺には無い。
この後、和歌山市まで走ってホテルで1泊。
墓参りは、明日の帰りにする。
それでいいだろうと、霊園を後にして和歌山市に向かって進む。

本当は、もっと早く墓参りも済ませ、和歌山市に入りたかった。
真っ暗な薄気味悪い中で墓参りをするのは嫌という気持ちもあったし、暗い中、和歌山市の手前にある峠を越えるのも怖かった(事故の懸念)。
が、仕方がない。
ホテルを予約している。
俺に逃げ道は無いのだ。

南海電車と並行して走る。
箱作。
淡輪。
岬町。
無駄にアップダウンが多く、嫌がらせとしか思えない道が続く。
その先に孝子峠があり、越えるとやっと和歌山市内に入る。
のだが、「峠の前に、念のためトイレ借りて水の補給しよか」。
峠前、最後のコンビニに寄ろうとした。

いつも、コンビニにロードバイクを止める際は、バリカーにロードを立て掛け、チェーンをくくりつけてロックする。
ので、「バリカーあるかな?」と店の前をうろついたところ、無い(経験上、セブンイレブンはあることが多いが)。
その時、知らないおばちゃんが俺の方を見ていることに気付いた。
ふらふらと、こっちに近寄ってくるではないか。
「どこから来たん?」。
旅先でよく聞かれる質問をされるのだろう。
そう思い、「西宮市です。甲子園球場があるとこです」と、俺は回答を用意した。
小太りで、眼鏡をかけたおばちゃん。
悪い人には見えないが、何故か半笑い。
表情が気になる。
「ハニャフニャアニャフニャ」。
聞き取れない言葉で話し掛けてきた。
「?」。
「何語や?」。
「もしかして…、この人、中国人か?」。
「何て返せばいいの?」。
悩む。
さすがに、このパターンはまったく想定していなかった。

コミュニケーションを取る自信が無い。
なら、かまっていてもお互いに時間の無駄だ。
駐車場の隅にフェンスが見えたので、「あっこにロードを立て掛けてチェーンでロックしよう」。
ロードを押しながら、フェンスに向かって歩く。
と、おばちゃんも付いてきた。
「勘弁してや!どうしょう…。どう対応しよう…」。
考える。
ふと足元に目をやる。
店内から漏れた光が影を作る。
俺の背中越しにおばちゃんが立っているようだ。
素直に「怖い」と思った。

害がある人ではないのだろうが、おばちゃんの存在に神経を使うのが嫌だ。
「ごめん。俺以外の、もっと気のいい人と会話を楽しんで」。
そう心の中で呟き、ビンディングペダルに足を乗せた。

俺は、人として失格なのかも知れない。
冷たい人間なのかも知れない。
何か適切な接し方があったのかも知れない。
旅から帰った今でも、ふと考えることがある。

暗闇の中、孝子峠に向け、俺は走り出す。
「トイレ借りられへんかったやん…。水の補給もでけへんかったやん…」。
萎える気持ちを抑えながら。

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