(232)うだつの町並みに飛ぶスズメバチ-3

降り注ぐ陽光を受け、吉野川を渡る。
天気がよく、景色がよく、気持ちもよい。
のどかな田舎の景色もよい。
が、スーパーだかパチンコ屋が妙に目立っているのは、少し気になる。

橋を渡って少し進むと、目的地である「うだつの町並み」。
この界隈は、都会からは離れているが、商業施設が随分と充実しているようで(プラモ屋まである)、マクドナルドやスーパーを横目に、俺はクランクを回した。

「どうやら、着いたみたいやな」。
ヘルメットを脱いで、それをリュックに引っ掛け、ビンディングシューズにカバーを取り付けた。
ロードバイクを押して、俺は歩く。

規模は小さいが、情緒溢れる町並み。
「いかにも」と唸りたくなるような豪商の邸宅があり、他にも古い町家が並ぶ。
平日の昼前だからか、観光客がほとんどいない。
俺は、誰の邪魔になることもなく、道の真ん中に立ち、辺りを見回した。
「映画のセットみたいやなぁ」と思いながら。

しばらく立ち尽くしていると、視界の端に、弾丸のように飛ぶ何かを捉えた。
俺は、反射的に「さぁ、帰ろ」と思う。
「多分、あれはスズメバチや…」。
4時間半ほど走って辿り着いた、うだつの町並み。
滞在時間、10分未満。
「しゃあないなぁ…」。
ロードを押して、小走りでその場から離れようとすると、左手に観光案内所が見えた。
和洋折衷の白い建物(帰ってから調べたところ、もともと税務署として使われていたそうだ)。
その隅に、トイレがある。
ちょうど、俺はトイレに行きたかった。
近くの壁にロードを立て掛け、しゃがみこんでフレームと後輪にチェーンを巻いていると、何やら異音を耳にする。
ふと顔を上げると、黄色い影が俺の周りを飛んでいるではないか。
「トイレなんか、もう、どうでもええ…」。
腰を低くしたまま、ゆっくりと、音を立てずにその場を離れる俺。
本当に、生きた心地がしなかった。

大通りに出て、一息つきながら、自転車ナビアプリをチェックする。
帰りのルートを検討するためだ。
行きは、鳴門市を南下し、徳島市に出てから、うだつの町並みへと西に進んだ。
あの、狭い上に交通量も多い、走りにくい道。
帰りも同じ道…は避けたいので、うだつの町並みから鳴門に直接向かう、具体的なルートを調べてみる。
余裕であった。
さらに、途中から、過去に走ったことがある道に合流するようで、気分的に楽になって良い。

「それにしても、なんで俺は虫に好かれるのだろうか?」と考えながら、クランクを回す。
子供の頃は、虫が大好きで、飽きもせずに昆虫図鑑をよく読んでいたが、大人になるにつれ、虫が苦手になった。
だが、虫が嫌いな大人になったのに、普段、生活していると、「虫の方は、俺のことが好きなんちゃうか?」と感じることがある。
例えば、ジョギングしていて、目の前に蝶や蛾が現れる。
俺は、「うわぁ」と思い、避けて通り抜けるが、少し進んで振り返ると、奴等が俺を追いかけて飛んでいたり、サイクリングロードを走っていて、バッタがわざわざ俺を目掛けて飛んできたり。
あ、トンボもか。
以前、奈良のかなり田舎の方に住む知人の家に行った時も、庭でぼけっとしていると、柄の無いキリギリスみたいな奴が、避けても避けても俺の方に飛んできたことがあった。
「オオクワガタとか、金になる虫に寄ってきてもらえると歓迎するけど、バッタは勘弁してほしいわぁ。あと、スズメバチなんか論外やで」。

そんなどうでもいいことを考えているうちに、Nさんとの待ち合わせ場所、鳴門の渡船場に着く。
行きとは違い、2時間ほどの快適なライドだった。

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