(728)ある夏の日。

エアコンの調子が悪い。
おかげで、蒸し暑く寝苦しい夜を過ごす日々。
どうしたものかと考えたところ、ベランダを開けて寝ることに。
効果はそれなりにあった。
洗濯物を干している日以外は部屋に風が入ってくれ、不快感を抑え眠ることが出来た…のだが、朝が辛い。
勘弁してほしい。
アラームなどセットしていなくても、強制的に起こされる。
クマゼミのせいだ。

夏のある日。
シャアシャアシャアシャアシャア…。
うるさい上、余計に暑苦しく感じられる。
かと言って、ベランダの窓を閉めてしまうと、部屋がサウナ状態に。
「死んでまうわ!」。
そう思い、更にどうしたものかと考えたところ、「外に出よう」となった。

かと言って、外出する予定も用事も無い。
繰り返し、どうしたものかと考えたところ、「しゃあないなぁ。気分は乗らんけど、ロードバイクで走ろうか」。
だらだらとSPD-SLシューズを履く。
そして、ロードを担いで階段を駆け降り、マンションの前でクリートカバーを外す。
シャアシャアシャアシャア…。

武庫川サイクリングロード。
向かい風が、心より鬱陶しいサイクリングロード。
ただ、この日の俺は、向かい風大歓迎。
風を受けることで涼しさを感じられるだろう…と思い走り始めた。

が、どこかでスイッチが入った。
向かい風に逆らい、挑み、クランクを回し、「死ぬほど汗かいたやんけ…」。
シャアシャアシャアシャア…。
折り返し地点である宝塚市役所前に佇み、フェイスタオルで大量の汗を拭く俺。

ボトルの水を飲みながら、「家におった方がマシやったんちゃうか?」と後悔。
まぁ、後悔しても遅い。
ならば…と、涼しさを感じられるそうな場所へ向かおう。
海の近くで、風を受けながらぼんやりしたい。
この辺りだと、尼崎の魚釣り公園か。

来た道を戻り、サイクリングロードを外れる。
シャアシャアシャアシャア…。
南武橋の信号で足を着き、ボトルに手を伸ばしていると、「クマゼミ、あいつら、どこ行ってもおるよなぁ」。
エネルギーを奪われそうだ。

橋を渡り、魚釣り公園まで一直線の道。
左手には工場が連なり、右手は堤防。
工場に出入りする車とは何度かすれ違ったが、概ね交通量は少なく走りやすい。
ただ、サイクリングロードと違い、木々に覆われた区間が無い。
日光を浴び続け、そしてクランクを回し続けた。

魚釣り公園の駐車場に目を向けると、それなりに車が埋まっているようで、それなりに賑わっているようだ。
「はぁ…」。
マスクを外し、フェイスタオルで顔を拭く俺。

ボトルの水を飲みながら、渡船をぼんやり眺める。
「さぁ、そろそろ帰ろか」と思い、マスクを付けよう…としたところ、「何やこれ!?」。
汗を含み、雑巾のようになったマスク。
確かに、走っている間、「顔の汗がやばいよな」、「マスクが汗で濡れてるわぁ…」と不快感を覚えたが、ここまでとは…。
「これ、掛けなあかんのか?」。
自分の汗ながらも、なかなか気持ちが悪い。

「しゃあないなぁ…」。
汗まみれのマスクを付け、サドルに跨がる。
一刻も早く家に帰り、水風呂に入りたい。

極悪な日差しを背中に浴びつつクランクを回す。
「あぁ…、喉が渇いたわ」。
ボトルケージに手を伸ばす。
「あぁ?」。
「はぁ…」。
ボトルが妙に軽い。
水が残り少ない…と言うか、ほぼ無い。

シャアシャアシャアシャア…。
また顔から汗が流れ出し、限界に近い不快感を覚えた。
「早く水風呂に浸かりたい…けど、至急、水を飲ませて…。死ぬわ…」。
ヘトヘトの俺は、道の脇に注視する。

「自販機…」。
「自販機…」。
「あった!」。
自販機に近寄り、小銭を入れ、「耐えたわぁ…」。

生き返った。
ごくごくと水を飲み、残った分をボトルに流す。
「ほんま、死ぬかと思ったわ」。
「はぁ」。
安らぎを覚える。

「さぁ、帰ろか」。
空のペットボトルを捨てようと、自販機の脇にあるリサイクルボックスに目をやる。
と、マクドナルドのドリンク容器がふたつ、投入口に刺さっているではないか。
何だろう?
「捨てた奴を呪い殺したい」という感情が湧き上がってきた。

シャアシャアシャアシャア…。

完。

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