(343)ロードバイクで伊勢を走る~SPD-SLシューズで歩いた、夜の伊勢~

伊勢うどんに満足した後、「お酒を飲みに、次の店に行きましょう」とSさんに案内され、夜の伊勢を歩く。
SPD-SLシューズで。
家からペンギン歩きの俺としては、足首やら足の裏やら痛い…。

「2軒、行こうと思ってましてね。1軒目は近くでね、ちょっと変わった店なんですよ。前から気になってて」。
松阪駅に着いてから、松阪城も田丸城も伊勢忍者キングダムも伊勢うどんも、無事に移動出来て楽しませてもらったのもSさんのおかげ。
Sさんの心遣いには、随分と甘えさせてもらった。
「夜もおんぶにだっこやな」。
「Sさんは、ほんまに俺を歓迎してくれてるんやなぁ」。
感謝の一言しか無い。
が、なかなか店にたどり着かない。
「SPD-SLで…、足が…、なんやけど…、早く…」。
念じながら薄暗い道を進むが、キョロキョロして一人言を言うSさんを見る限り、道を間違っているようだ。
たまたま近くを歩く兄ちゃんが、「どこ行くん?」と声を掛けてくれ、Sさんが「岡田酒店です」と答えると、「ここ、ここ」と教えてくれた。
おかげさまで、SPD-SLシューズで無駄に歩く苦痛から解放された俺。
「有り難う。兄ちゃん」。

岡田酒店に入ると、Sさんが行きたがっていた意味がわかった。
ただの酒屋さんのようだが、立ち飲みを楽しめる区画もあり、カウンターにSさんとふたり横になる。
と、もともとは蔵なのか?
歴史を感じる雰囲気で、天井が高く、「ここで酒を飲むなんて、なんともお洒落な」と感じる。
「雰囲気的に日本酒を飲みたいなぁ」とも思ったが、次の日は朝からロードバイクで60㎞ほど走る。
「あまり酔いすぎないように」と、ハイボールを頼んだ。
Sさんも何か乾きものと酒を注文したと思うが、何だったかは忘れた。
常連さんであろう数人のお客さんは、楽しそうに、でも騒がず静かに飲んでいる。
バカ騒ぎする学生や酔っ払いがいる店ではなく、しっとりと飲む大人の立ち飲み屋。
「風情があるよなぁ」と思いながら、「ハイボール、おかわり」。

店を出て、次に向かう。
千鳥足になるほど酔ってはいない。
酔っていないからこそ、「足疲れる…。SPD-SL…」。
それがずっと気になった。
「ちょっと歩いて、一月家というお店に行きますね。そろばん弾いて会計する店主のお店でね」。
Sさんからの説明を受けながら、一歩一歩進むが、「足、痛い…」。

右を見ても左を見てもシャッター。
「どこまで続くんやろ?」と不思議に思えるほど退廃的な商店街を歩く。
と、前から人力車を引いた兄ちゃんが走ってきた。
「お、××で見たよ!頑張ってね!」とSさん(××の部分は聞き取れなかった)。
友達に声を掛け、世間話をするような振る舞い。
後から、「あの人、夜の伊勢を盛り上げようと人力車を引いて頑張ってるんですよ。まぁ、初対面なんですけどね」。
俺は「Sさんって、すごいコミュニケーション能力あるよな」と感心した。
ちなみに、家に帰ってからスマートフォンをいじっていると、GoogleのDiscoverに人力車の兄ちゃんの記事が表示された。
「おぉ、あの兄ちゃん、ほんまに有名やってんな」。

一月屋に着く。
すごい熱気だ。
満員で、奥の座敷に通してもらったが、熱気が伝わってくる。
しっとりと飲む岡田酒店とはまた違う、騒がしく居酒屋らしい雰囲気。
「いいねぇ」。

芋の水割りと湯豆腐。
Sさんと話しながら飲み食いする。
まずは明日のスケジュールについて確認。
「朝の8時半に、ホテルまで向かいに行きますね」。
「牡蠣のお店には11時で予約してます。時間に余裕があるので、ゆっくり進みましょう」。

だんだんほろ酔い気分になってきた。
ロクに眠らず朝からバタバタしていたので、体が疲れているようで、すぐに「気持ち良くなってきたわ」となった。

ロードバイクに関する話をして、仕事やプライベートに関する話に入る。
「Sさんも鬱で辛かった時期があったんですよね?」。
「そうですね。あの2~3年は、何をして過ごしてたんやろ?と自分でも思うぐらい、記憶が曖昧です」。
「どういった切っ掛けで鬱に?やはり、仕事で負担がありすぎたんですか?」。
「それがですね~~」。
Sさんは、社内で複数の業務に携わっていたが、その中のひとつ、クレーム対応で病んだそうだ。
「お前んとこの製品、買ったけど何で動けへんのや!?」とキレられて、「あの、コンセントは差されてますか?」と確認すると、差していないと。
クレームを入れた側は、「解決してよかったね」で終わるが、クレームを受ける側は精神的苦痛が残る。
それが蓄積され、おかしくなったと。

「俺とはパターンは違うけど、Sさんもすごいストレスを抱えてたんやなぁ」。
「でも、今、随分と話し方も顔立ちも明るい感じがする」。
そんなことを考えながら話し込んでいると、「そろそろ休ませてもらいたいと思います」。
そろばんを持ったお爺ちゃん(店主)が顔を出した。

ふたり、ホテルに向かって歩く。
気持ちよく飲み酔っ払ったからか、SPD-SLシューズで歩くの苦痛は、感じなくなっていた。

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