(350)ロードバイクで伊勢を走る~山道を歩く~

「頂上付近の正福寺まで、距離で言うと4㎞です」とSさん。
「4㎞言うても、登りやろ。平坦な道やと嬉しいけど」。
俺はそう思いながら頷き、ふたり、進みだした。

「いきなりかよ…」。
見ただけで吐き気がする坂。
「この傾斜って、何%なんかな?」と考えそうになったが、「考えてはいけない」、「いや、考えたくない」という気持ちが勝ち、とにかく脚を回すことのみに集中する。

道は狭い。
路面の状態も悪く、全体的に湿っている感じがする。
日当たりも悪く、裏ステージとしか言い様が無い。
「ほんま、コンディション良くないよなぁ。なんちゅー道やねん?」と思ったが、そもそも「あんな道、普通、自転車で走りませんよ」とSさんが言っていた気がする。
クランクを回しながら、「なら、正福寺に行かんでもええやん」とも思ったが、もともと俺が言ったんだ。
「正福寺に行きたい」と。

前を走るSさんを見ていると、少し疲れているように感じた。
まぁ、俺は俺でボロボロなのだが、登りきらないといけない。
「仕方がない。最終奥義を出そう」。
決意する。

俺はレースに出ているわけではない。
タイムなどどうでもいい(とりあえず帰りの電車に間に合えばいい)。
遅くてもいい。
ただ登り続ければいいだけだ。
そこに、ひとつルールとして「足をつかない」。
これだけは守る。

まぁ、こう思い実行することが最終奥義なのですが、これで何とかなってきたんですよ。
自然に登りきれてたんですよ。
今まで。

「足はつかない。遅くてもこけない程度に登り続ける」を自分に言い聞かせて、激遅ではあるが着々と進む。
「あー、ちょっと傾斜がきつなった」とダンシング。
前に目をやると、Sさんのスピードが明らかに落ちた。
そして、Sさんの足が地面に…。
「わかる。気持ちはわかる。俺も同じ苦境に立たされているから」。
「しかし、俺はカウント2.99で返す男だ」。
もがきながらクランクを回し、Sさんを抜いた。

が、その時、「チキンレースになりますよ」。
Sさんの声が聞こえた。
「強引に走ってもお互い苦しむだけですよ」という意味なのだろう。
「なるほど」。
すごく納得。
そして、俺も足をついた。
正直、大至急、この苦しみから解放されたかったし、都合が良い。

「なんて過酷な道なのだろう」とふたりで話し合う。
と言うか、傷を舐め合う。
「それにしても、ほんまに疲れたわぁ。全然進んでないんやろなぁ」と思いながらも、「どれぐらい進みました?」とSさんに聞いてみると、「1.3㎞です」と。
俺は小躍りしそうになった。
「そんなに進んだんや!?」。
「てことは、あとはたったの2.7㎞やん」。
やる気がみなぎり、再スタート。
そして、すぐにふたりとも立ち止まった。
きつすぎる。

またしばらく雑談をしてから、サドルを跨ぐ。
徐々にSさんの背中が遠退き、ひとりで苦しみに耐えていると、見えた。
「あ、Sさん、おるわ」。
「ダンシングで登っていってるな」。
「あら?妙に遅いけど」。
近付いてわかった。
Sさんは、サドルから降りてロードバイクを押して歩いていた。

もう、お互い観念した。
歩いて山頂の正福寺を目指す。
「歩いててもしんどいわぁ」。
「てか、ほとんど歩いてないか?」。

疲れていたので、正直、話す気力はあまり無かったが、一応確認を取りたい。
Sさんに話し掛ける。
「あの、これってサイクリングなんですかね?」。
「ハイキングですね」とSさん。

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