(373)日帰りで鳴門へ~眠さと寒さ~

朝の4時に車でNさんが迎えに来る。
それまでにちょっとした準備を終え、眠気覚ましに風呂に入りたい。
「逆算して、2時に起きれば問題無いやろ」。
眠りにつき、一応は2時に起きた。
が、「まだ大丈夫やろ」と二度寝。
3時に飛び起きて、飛び込むように風呂に浸かった。

眠気は覚めた。
まず、タイヤに空気を入れる。
そして、チェーンの清掃と注油をしようとしたが、「3日前にもしたから、まぁええやろ」。

次に荷物の準備。
アンダーウェアやジャージ、バイカーズパンツとインナーパンツ、ソックスを布団の上に並べた。
出掛ける前、スムーズに着替えられるように。
SHIMANOのT15(バックパック)の口を広げ、スニーカーを入れる。
サイクリング中はビンディンシューズを履くが、鳴門をうろうろと歩くことも想定しているので、スニーカーはあった方がよい。
カスク、OTTO LOCK、飴やハイチュウも収納。
最後に、買ったばかりのサコッシュも。

「krmさんの家の近くまで来ました」。
Nさんからメールが入った。
俺は急いで着替え、バックパックを背負い、ロードバイクを押して小走りに待ち合わせ場所(しょぼい自販機の前)に向かう。
「鍵は閉めたよな?スマートフォンの充電器、コンセント抜いたよな?」。
そんな不安を抱えながら。

「お早うございます」。
「お早うございます」。
少しの外灯に照らされているが、辺りは暗い。
「4時出発…、早すぎるやろ」と思いながらも、前輪を外したロードと荷物を車に乗せた。

「コロナのせいで、しばらくお店を閉めることにしました」。
運転をしながら、Nさんが口を開いた。
飲食店のオーナーである彼にとって、大変なご時世だ。
いつも鳴門へ鯛を釣りに行き、例えボウズであっても趣味と向き合い楽しいひとときを過ごしているNさん。
「世間ではいろいろあるけど、今回も鳴門でリフレッシュしてくれたらええな」と思う。
まぁ、この時点の俺は、人のことを気にする余裕があった。
後でNさんに謝ることなど想像もしていなかった。

釣具屋、フィッシングマックスの駐車場に車を駐めて、「餌を買いに行ってきます」。
車を降りるNさん。
俺は釣りをしないので、その楽しさをよく理解出来ないが、何度も彼と一緒に鳴門へ行くことで、フィッシングマックスが身近に感じられるようになった。
個人的に買い物をしたことは無いけどね。

出発してから30分ほどは、車内で世間話をした。
しかし、徐々にお互い無言になる。
Nさんは5時間前まで働いていたわけで、俺は俺で寝不足。
「楽しく語り合いたいな」という気分は、ほぼ0。

高速に乗り神戸。
明石海峡大橋を渡り、淡路島。
いつもならサービスエリアに寄るが、何故かこの日のNさんはノンストップで鳴門へ進んだ。

「あかんわ。やっぱり眠たいわ」と思い、俺は目をつむる。
しかし、眠れない。
車内があまりにも寒すぎて。
「運転してるNさんは寒くないんか?」と彼に目をやると、ダウンジャケットを着ているではないか。
俺は長袖ジャージと、中にアンダーウェア。
計2枚。
「あの、めっちゃ寒いんですけど。本当に悪質な寒さなので暖房入れてくれませんかね?」と言おうとしたが、それすら面倒くさく感じ、目を閉じて耐えることにした。

大鳴門橋。
淡路島と徳島県鳴門市に架かる橋。
「ここを自転車で通れたらええのになぁ」。
ぼんやり考えていると、鳴門に着いた。
辺りは暗いので景色はよく見えないが、俺にとって馴染みがある場所。
少し安心感が湧く。

コンビニに寄ってトイレを借り、水を買ってから渡船乗り場の駐車場へ。
5時30分。
西宮市を出発し、たったの1時間半。
「いつもより早いですね」と俺は久々に口を開く。
「今日はサービスエリアに寄り道してませんからね」とNさん。
まぁ、それはそれとして「俺、車の中でちょっと寝ますわぁ」。
Nさんは車の鍵(スペア)を俺に手渡した。

トランクを開け、釣り道具を出す音。
シャカシャカと服を着替える音もする。
「とにかく俺は疲れている。寝ることに集中しよう」。
やがて音が聞こえなくなり、Nさんは渡船に乗ったようだ。
「俺には関係無い。とにかく寝ることに集中しよう」。
「この後、鳴門からどこまで走り、何時間かかるかなど計画はしていない。そんなことはどうでもいい。とにかく今は寝よう」。
俺は助手席で丸まったが、「無理!」。
「寒すぎて無理!」。
仕方が無いので、「眠るのは無理でも、このままゆっくり体を休めよう」と心掛けた。
が、「無理!」。
「寒すぎる!死ぬ!」。
かといって、寒い中を走る気力も無く、「どうしょうかなぁ」。
車の中でぐずぐずしていると、「寒いからって言い訳してたら何もでけへんでしょう」。
その言葉が浮かんだ。

以前、チームメイトのAさんが、「これから寒くなるのでしばらくはロングライドには出ませんわぁ」と言った時、俺が返した言葉だ。
「Aさん、暑いから寒いからって言うてたら何もできないですよ。一生、家に引きこもっとけって話ですよ」。
矢印を自分に向け、その言葉を口にする。
「確かにな」。

車から出ると、やっぱり寒い。
「陽は昇ってきたけど寒いわ」。
「今から走り始めたら、風を受けてもっと寒いんかなぁ」。
独り言を言いながら、辺りを見回す。
駐車場には、俺が乗ってきたNさんの車だけ。
「他に渡船に乗る人おらんのか」。
「釣り人も自粛してるんかな。コロナの影響で」。

バックポケットからスマートフォンを取り出し、時間を確認する。
6時30分。
1時間ほど車内でダラダラしていたようだ。
「あぁ、まだ1mも走ってないのに、体がすごくだるい…」。
車のトランクを開けて、ロードを出す。
出発の準備をしなければならない。

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