(376)日帰りで鳴門へ~うましの休憩所の記憶~

スタート地点である鳴門市の渡船乗り場から高松市までを往復すると、距離はだいたい110㎞~120㎞ぐらいかと思う。
時間は、休憩せずに走って5時間から6時間。
朝の6時にスタートした場合、高松で折り返し戻って来ると、鳴門に着くのはお昼前。
車で俺を鳴門まで乗せてきてくれたNさんが、釣りを終えるのは昼の3時(季節によって前後するが)。
というわけで、「サイクリングを楽しんで鳴門に戻ったんはええけど、待ち時間をどうしょうか?」でいつも悩む。

「なるべく待ち時間を減らしたいな」と、いくつかの休憩地点を設定し、走っては休み走っては休みを繰り返す。
その休憩地点のひとつが、「うましの休憩所」。
東かがわ市。
鳴門から30㎞ほど走ったところにある。

トイレを借り、ベンチに座ってぼんやり辺りを見回すと、それなりに車が走る道沿いであり、駐車場もあるのに、休憩しているのは俺ひとり。
綺麗な花と、花壇に水をやるおばちゃんも視界に入る。
「この人、前にも見掛けたな。市の職員なんかな?」。
「いや、そもそもここは市営なんか?」。
そんなことを考えているうちに、10分が経ち20分が経ち、「まぁ、どうでもええか」となった。

走る気力が徐々に0となり、ビンディングシューズのBOAダイヤルを緩めていると、「あかんわ。鼻がむずむずしてきた」。
この日、鳴門日帰りツアーの荷物を用意してきたが、鼻炎の薬を忘れたことに気付く。

鼻水が垂れてきた。
「あ、ティッシュも忘れてるわ」。
もう一度トイレに行き、大便器のある個室の扉を開ける。
そして、「トイレットペーパーを少しわけてもらおうか」と手を伸ばす。
と、「おー、『いかにも!』って感じ」。
便所の落書きがそこにあった。
「いやぁ、この低次元さ。低次元すぎてすごい」。
「ひっさびさに見たなぁ」。
あまりにも下品な落書きを見て、俺はもう感服するしかなかった。

鼻をかんだ後、またベンチに座り、ぼけっと桜を見る。
今年はコロナのせいで花見も自粛ムードだが、「俺ひとりやし酒も無いけど、のんびり桜が見られるとは、なかなか贅沢やな」と思う。

居心地が良い。
時間にも余裕がありすぎるので、「1時間ほどこのまま過ごそかぁ」。
「早朝、鳴門に着いた時に比べると、随分と暖かくなった気もするし」。
「よし、このままベンチで寝よう」。
「どうせ誰もおらんし(花壇のおばちゃん以外)」と、横になろうとしたその時、異音を感知した。

「ブーン…ブーン…」みたいな音。
「あぁ…」。
俺の苦手な虫(大人になって無理になった)。
しかも蜂系がホバリングしているではないか。
寝てる場合ではない。
50㎝ほど先にホバリングしているのは「何?」。
目を凝らす。
おそらくクマバチ。
「落ち着け。確か、クマバチのオスは人を刺さない」。
が、メスかも知れない。
刺してくるかも知れない。
少し状況を見守ろう、クマバチを監視しようとしたが、「そうじゃない。今すべきことは」。
「とりあえず、俺が今すべきことは、この場を離れること」。
クマバチを刺激しないように、なるべくゆっくりと荷物を整理して、なるべくゆっくりとカスクを被る。

サドルに跨がり、右ペダルにクリートをはめる。
いつでも逃げられる体勢を整えた。
まだ近くでホバリングしているクマバチに目を向けると、急降下。
そのままベンチの下に潜り、そして消えた。

「あら?前にも同じことがあったよな。ここで」。
「あの時は、クマバチやなくアシナガバチやった」。
「ほんま、半泣きになったよな」。
あまり嬉しくない記憶が蘇ったが、「忘れよう」。
そう自分に言い聞かせ、右足でペダルを踏み出す。

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