(381)日帰りで鳴門へ~高松からの帰り道~

登りを楽しむ感覚が少し理解できた。
「もっともっと」、「まだまだ登るぞ」とクランクを回していると、また平坦な道に。
町だ。
海がすぐそばにあるので、「水産業が盛んな町」と勝手に決め付けていたが、走りながら町並みに目をやると、石材店が妙に多い。
この辺りに石材に関する伝統があるのかは知らないが、きっと何かしらの意味や歴史があるのだろう。
「気になるな。帰ってから調べてみよう」。
そう思い、2週間経過した。
今のところ、まだ何も調べていない。
この記事を書くまで、完璧に忘れていた。

11号線に出る。
鳴門への一本道だ。
残り60㎞。
のんびり走っても3時間。
余裕をかまして走るつもりでいたが、時計を見ると正午を過ぎているではないか。
「参ったなぁ。Nさん、3時に釣りを終えるって言うてたけど、俺、遅刻してまうかも」。
少し心配になったが、俺は自分の実力を過信している。
「その気になれば、60㎞ぐらい2時間で走ったるわ」。

強気に走り出した俺。
しかし、本音の部分では「ほんまに大丈夫やろか?」。
少しの不安が芽生え始めた。
俺は自覚している。
いつも見積もりがいい加減なのだ。
また、「何事もなるようになるわ」と、途中で考えることを放棄してしまう。
悪い癖だ。

スマートフォンのアプリ、自転車NAVITIMEを確認する。
3時までに鳴門に着くことを、客観的なデータによって安心させたい。
自分自身を。
「『到着』の欄に『鳴門』と入力して『検索』」。
「はぁ?」。
「鳴門まで3時間45分?」。
根拠がわからない。
根拠がわからないデータなど、参考にしない。

気を取り直して、11号線を鳴門に向けて走る。
しかし、なかなかスピードがのってこない。
「風向き?」。
「いや、実はずっと微妙な登り?」。
思い通りにいかない。
「これはヤバいな」と、Nさんにメール。
「自分は少し遅刻するかも知れません。今、高松から鳴門に向かっています」と。

プレッシャーを感じる。
と言うのも、他人から見ると、俺は時間にうるさいキャラなのかも知れないからだ。
遅刻が多い人には、辛辣な言葉を投げ掛ける。
そんな俺が遅刻するわけにはいかない。
「他人に厳しく自分に甘い」と思われたくない。

時間に余裕が無い。
普段なら、津田の松原(綺麗な砂浜と立派な松林がある景勝地)で休憩するが、松を眺めて「美しいものに心が揺さぶられる自分、大好き」などと自己愛を深めている場合ではない。
走るのだ。
鳴門へ。

信号待ちのたびにバックポケットからスマートフォンを取り出し、時間を確認する。
「このペースやと、まだあかんわ。遅刻やわ」。
また信号待ちで、時間を確認し…を繰り返したが、「これはこれであかんわ」。
過度に時間を気にすると、自分にプレッシャーを与えすぎてしまう。
以後、なるべく時間は気にしないように心掛けた。

「そっれにしても」。
ゴーゴーゴーとRacing Zero Niteの放つ音を耳にしながら、独り言を呟く。
「そっれにしても、腹が減った…」。
朝から大したものを食っていない。
ハイチュウを口に含んだ程度で、6時間から7時間、脚を回している。
「ちょっとしたものでも食おう」と、たまたま見掛けたローソンの前でロードバイクを止めた。
セブンイレブンやファミリーマートなら素通りしていたが、ローソンには寄りたい。
実は、気になる食い物があるのだ。

トイレを借り、レジ横のホットスナックコーナーへ。
「お、あるやんけ」。
ネットだか何かで目にした、GU-BO。
前から食ってみたかった。
個性的な具材が入った、パイ?春巻?
「やっぱり、ベーコンポテトやな。一番うまそう」。
店員に声を掛ける。
「すみません。GU-BOのベーコンポテト味をください」。
清算を終え、イートインスペースへ。
席に着き、ガラスの向こうにある止めたロードを監視しつつ、GU-BOをひとくち。
「まっずー!」。
「捨てるん勿体ないから食うけど、最高にまっずー!」。
まずすぎでびっくりした。
と書きながらも、俺はGU-BOを全否定する気持ちは無い。
この時点で80㎞以上走り、喉がそこそこ渇いている状態で口にしたので、相性が悪かったのだ。
多分、そうだろう。

腹は満たされない。
もう一度売場に戻る。
そして、「塩おにぎり2個入り」を買った。
「さすがに、塩おにぎりで当たり外れは無いやろう」という判断で。
うん、けっこう保守的な俺。
サコッシュに塩おにぎりを入れ、「無駄に時間をロスしてもうたな」と反省しつつ、サドルに跨がった。
「まぁ、信号待ちの間にでも、ささっと食ったらええやろ」。

想像しているよりも脚が疲れているようだ。
サイコンに目をやると、時速はせいぜい25㎞程度。
焦る。
必死になってクランクを回す。
信号が少なく、また赤信号に引っかかることも少なく、それなりには進んでいるのは嬉しいが、「この塩おにぎり、いつ食うたらええねん?」。
悩みが尽きない。

と、休憩所が見えてきた。
峠の中にぽつんとある、緑に囲まれた四阿(あずまや)。
過去にも利用したが、暑い時期だったせいか虫が飛びまくっていて、休憩どころの騒ぎではなかった(俺は虫が苦手)。
「でも、今の時期やったら大丈夫そうやな」。
「うん、4月やしな」。
俺はベンチに座って塩おにぎりにかぶりつく。
「うまい」。
ふりかけのかかったおにぎりと、梅干しが乗っかったおにぎり。
手の込んだ具材の入ったおにぎりもいいが、たまにはシンプルなおにぎりもいい。
気に入った。
ちなみに、西宮に帰ってから何店舗かのローソンに足を運び「塩おにぎり2個入り」を探したが、どこにも売っていなかった。
もしかして、四国限定なのかも知れない。

「今日、初めてまともなもん食うたわ」と安堵し、そのままベンチで横になりかけたが、「ダメだ」。
3時までに、鳴門に着かなくてはならない。
のんびり昼寝などしている場合ではない。
「ここは自分に厳しくいこう」と言い聞かせる。

10分、15分で、とりあえずは鳴門市内に入った。
左手に海が見え、ゆっくりと景色を堪能したい気分になったが、「ダメだ」。
Nさんとの待ち合わせ場所、渡船乗り場の駐車場へ、一刻も早くたどり着かなくてはならない。
「ここは自分に厳しくいこう」。

「お待たせしました」。
渡船乗り場の駐車場。
Nさんと船頭さんが何か楽しげに話していたが、それをぶったぎる勢いで声を掛けた。
「すみません。少し遅刻したようで」。
そう言いながら、時間を確認すると、3時15分。
「15分の遅刻かぁ。ローソンでGU-BOなんか食ってんと、走ってたら間に合ってたのに…」と思い、ガクッときた。
と、「krmさん、大丈夫ですよ。遅刻していませんよ」。
Nさんから優しいお言葉が。
「そう言ってもらえると助かります」。
「いえいえ、実はね…」。
話を聞くと、3時に釣りを終え、筏に乗って上陸し、駐車場に着いたのは今さっきとのこと。
「はあぁ?」。

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