(384)ロードお遍路の予行演習~朝の鳴門~

「何で待ち合わせ時間が朝の3時半やねん…」。
心の中ではふて腐れまくっていたが、「今日は釣れそうですか?」。
ハンドルを握り前を向くNさんに話し掛けた。
「鳴門の渡船を予約しようと船頭さんに連絡したらね、こうこうこういう餌を持って来たらええよと言われましてね、用意したんですよ」。
「ほー、餌についてアドバイスもらったんですか。意味深ですね。期待度が上がりますね」。
ちなみに、この日のNさんは、ターゲットにしていた真鯛どころか、期待していない魚さえ釣れなかったそうだ。
ボウズ。

真夜中の高速道路を走る。
「最近、甲子園近くの居酒屋○○さんもランチ始めたらしいですよ」。
「××さんは、お昼に弁当を始めて、どこもコロナの影響があるみたいですねぇ」。
Nさんとそんな話をしながらも、俺は別のことを考えていた。
それは、「ロードバイクお遍路」。
今回も日帰り鳴門ツアーなので八十八ヶ所巡りは不可能だが(100%)、何かお遍路に繋がる走りをしたい。
「鳴門から行ける範囲のお寺を回ろうか」。
「でも、蝋燭や線香を供える位置がどうのこうのっていうマナーも不勉強やし、どうしょう?」。
「うち、真言宗やからか般若心経を唱えたことはあるけど、すらすらと頭からは出てけえへんわ。般若心経を書いてる薄い本?昔、葬式の時にもらって読んだけど、今、手元に無いで。唱えるん無理やで」。
「じゃあ、鳴門から出発して、Nさんの釣りが終わる時間には帰ってこれる範囲でお寺を回る…でいくとして」。
「でも、門はくぐれへん。礼儀、マナーがわからんから。とにかく門の前まで来たら次のお寺へ…を繰り返して、ちゃんとしたお遍路さんちゃうけど、ロードお遍路さんを少し経験する感じで走ってみよか」。

5時半(朝の…)には鳴門に着き、コンビニでトイレを借りたりコーヒーや水を買った後、渡船乗り場の駐車場へ。
前回、鳴門に来た時は「寒すぎて寝てられへんわ」と狼狽えたが、今回はジャケットを用意した。
羽織って、助手席で半眠りになる。
「霊山寺」は、コンディションを整えてから行く予定。
「バサバサ」。
「サッサッ」。
トランクで、また、車の横で、Nさんが着替えたり釣り道具を出している音が聞こえる。
「手慣れているなぁ」と思いながらも、俺は横になり続けた。

音が止み、「ゴロゴロしてても仕方ないしなぁ」。
車から出る。
景色を見ながら「清々しい朝だ」などと思ってみるが、「さぁ、走るぞ!」という気分にもならず、近くのローソンに向かって歩く。
前回、鳴門~高松を走った時、十分な食事を取らず苦労した。
「食べられる時に食べる」を心掛けるべきだと学習するいい機会となった。
歩いている時間よりも信号を待つ時間の方が長かった気もするが、ローソンに着き、弁当売場へ。
「おーー!あるやんけ!」。

渡船乗り場の駐車場に戻り、お待ちかねの「塩おにぎり2個入り」を食べる。
ふりかけと梅干しの簡単なおにぎり。
「こういうシンプルなんが、魂を揺さぶってくれるねんなぁ」。
「うまいわぁ」。
スイッチが入る。
「さぁ、走ろうか」という気分になった。

トランクからフレームを引っ張り出し、地面に引っくり返してホイールを付けていると、「今日はどこ行くん?」。
振り返る。
渡船の船頭さんだった。
赤ら顔で笑顔のおっちゃん。
「今日はお寺を回りたいと思ってまして、今から霊山寺(四国霊場第1番札所)に行きます」。
「1番さんかぁ。1番さんやったら、すぐやで」。
「はい、その後、2番札所、3番札所と西に向かって走って、阿波市の方まで走りたいと思います」。
そう俺が言うと、船頭さんは去っていった。
船頭さんは、話した感じも良いし、顔立ちからして人柄の良いおっちゃんだと思うが、「おはよう」も無く急に話し掛けてきて、「頑張りやぁ」とか「いってらっしゃい」の言葉も無く消える。
「ペースが狂うわ」と思いながら、俺は右足をビンディンペダルにはめた。

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