(407)阪神しまなみ海道ポタリング~知らないロード乗りとの会話~

かったるい橋をクリアし、深江浜を観光せずに北に走る。
43号線に向かって。

トラックが多く、トラック以外の車もまぁまぁ飛ばしている危険な道だが、信号が少ない上に道幅が広い。
時間が無い時には最適だ。
「宅急便の配達が来るまでに帰らなあかん」。
「水も飲みたいしな(金が無い)」。
俺なりに臨戦態勢に入り、フロントをアウターへ。
「あら?」。
シフトチェンジができない。
インナーでシャカシャカ脚を回しながら、「もう一丁」と左手をクイッと回したが、チェーンは微動だにしない。
「全然スピード出えへんやん」。
シャカシャカ、シャカシャカ…。
「参ったなぁ」と、シフトチェンジを繰り返していると、チェーンがアウターにはまってくれた。
調子が悪いテレビをどついたら、正常に映ったようなもんか。

追い風のおかげで、スピードがぐんぐん伸びる。
サイコンに目をやると「37㎞/時」。
「まだまだ伸びるはず」と、この日初めて気持ち良く、そして興奮気味にクランクを回したが、赤信号。
「まぁ、ええわ。このペースなら大丈夫」。
行きは阪神しまなみ海道を走って深江浜まで1時間かかった。
しかし、帰り、43を走ると30分で家に着くペース。
少し気持ちに余裕ができた。
リラックスしていると「あ、青や」。
信号が青になると同時にクランクをガシガシ回す。
気持ちいい。
が、回せば回すほど喉が渇いてくる。
水を買おうにも、俺は40円しか持っていない。
「一刻も早く水を飲みたい…」。

「あ、事務所にコーラあったよな。この前、昼にピザを注文した時、一緒に持ってきてくれたやつ」。
家に戻るほんの少し手前に、都合良く職場の事務所があるので、「汗まみれで薄汚い格好やけどええやろ。寄ってコーラ飲もう」。
カスクを頭から外し、手首にぶら下げてブラケットを握る。
熱すぎて頭がムシムシしていたし、事務所まで残り500mほどだ。
「歩道を走るし、ノーヘル(ノーカス?)でもええやろ」と。

事務所が入っているビルにたどり着き、1階の入口前でクリートカバーをシューズの裏にはめていると、「こんにちは」。
見るからにガチガチの格好をしているロード乗りに声を掛けられた。
「あ、どうもこんにちは」。
俺はたじろぎながら挨拶を返す。
目の前には、アイウェアとヘルメットのせいで、何歳かわかりにくい男性。

「そのロードは、どこで買ったん?」。
「カンザキバイクです」。
「うん?」。
「自分は、淡路にあるカンザキバイクで買いました。阪急の淡路です(淡路島と誤解されないよう)」。
「そうかぁ。でもな、ロード買うんやったらサンワで買いや」。
サンワとは、尼崎にあるサイクルセンターサンワ。
俺もちょっとした買い物に行くことがある。
男性は乗っているロードに指を差して、「サンワはええで。これな、サンワで買ったんや」。
「はぁ」。
「これもやで」とジャージの胸元を軽く引っ張る。
「サンワはなぁ、ええもんが安いねん。兄ちゃんやったら、サイズはMか?」。
「そうですね」。
「じゃあな、早く行って買ってき。ええもんを安く売ってくれるから」。
俺としては、チームジャージを作ったので「今のところジャージはいらんなぁ」だが、「はぁ、わかりました」と答えた。
「ワシは定年退職してなぁ、3年ほど前にロード乗り始めてなぁ、そういや、兄ちゃん、今、どこ走ってたん?」。
しゃべりの展開が早い。
ぐいぐい進められる。
「阪神しまなみ海道です」。
「ほー、そうかぁ。遠いなぁ」。
多分だが、話した感触として、俺が尾道~今治のしまなみ海道を走って帰ってきたと誤解してるっぽい。
さらに、それに対抗してなのか「ワシはこの前まで鹿児島に行っててなぁ」。
コロナの前に鹿児島に行って、中国人観光客と仲良くなって、その中国人が金持ちなのか何か知らんがすごく高い部屋に泊まらせてもらったとかなんとか。
「知らんがな。俺、どう返したらええねん?」と悩む。
「それでなぁ、お前。ロードは飛行機に積んだらあかんで、お前。めちゃめちゃされよるからな」と。
俺からすると、親でもなく上司でも先輩でも取引先でもない、初対面の知らん人から「お前」呼ばわりって…。
まぁ、納得はいかないが、「歳食った人ってこういうのおるよな」と諦めた。
人様に対して「お前」と呼ぶことが癖になっている、話と話の間に「お前」が入る癖がある人っているのだ。
歳を食うと。
「ほんでなぁ、次は北海道行こう思っててなぁ。福井から船出てるやろ?飛行機はあかんねん、飛行機はお前」。
話を聞いていて、「そろそろ勘弁して下さい…」。
「多分、この人は悪い人じゃないんやろなぁ」とは思う。
俺にしたって、普段、ロードのことを話せる相手がいないから、機会があればべらべらしゃべる。
この定年退職したおっちゃんもそんな心境なんだろう。
また、「ロードの保管は家でせなあかんで」とか「風呂に入りながら脚のマッサージせなあんで」など、自分が知っていることを人に教えたい親切さもある(「言われんでもわかってるわ」ってことばかりやったけど)。
ただ、俺は宅急便が来るまでに家に帰りたい。
さらに、一刻も早く水分補給したいのだ。
コーラを飲みたいのだ。
「あかんわ。このおっちゃん、死ぬまで話し続ける人やわ」。
「会話を無理矢理終わらさんと、俺が先に死ぬわ」。
「でも、話が終わると間髪入れずに次の話が始まる…。ぶったぎる間を与えてくれない…」。
しばらく我慢したが、「もう無理…」。
「すみません。急いでるんで失礼します」。
頭を下げて、俺はロードを担ぎ事務所への階段を登った。

先日 、飲み屋でマウントを取ってきた知らんおっさんもだが、自分が人様に対して主導権握っていると誤解せず、謙虚な気持ちで相手の都合も考えてほしい…。
少しは…。

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