(427)しまなみ海道を走り、とびしま海道を走り~尾道ラーメンを食った不安な夜~

飲んでる最中、仕事関係の電話が入り我に返る。
「その件については、~~で~~で~~です」。
「はい、宜しくお願いします」。
電話の後、居酒屋に戻って自分の椅子に座ると、既に会計が終わっていた。
Sさん、なかなかスマートなことをしてくれる。
「有難うございます。では、明日の夜は自分が出しますので」。
そう言って、駅の近くにあるラーメン屋に向かった。

尾道に来たからには、尾道ラーメンを食わなくてはならない。
入店して食券を購入。
高校ぐらいの女子店員に渡す。
バイト同士でぺちゃくちゃ喋っている光景を見ながら、「入る店、間違えたかな」と少し後悔しつつラーメンを待った。
しばらくしてSさんのチャーシュー麺と俺のラーメンが出され、「さぁ、食おか」というタイミングで「あつっ」。
隣からSさんの一人言が聞こえた。
俺はレンゲでスープをすくい、それを口に…「あっつ!」。
「マジか?」と思った。
気を取り直し、麺をすすって「あっつ!」。
背脂が浮くいかにも旨そうな尾道ラーメンで、味は旨いが「あっつ!」。
ちなみに、俺の中で尾道ラーメンと言えば「朱華園」。
今は営業休止中のようだが、朱華園が頂点であり基準だ。
この店のラーメンは、旨いけれど朱華園ではない。
ただ、自分の中に設定された勝手な基準を無視すると、ストレートに「旨い」と感じる。
熱すぎるけどね。

ラーメン屋を出てホテルに戻る。
「明日からしまなみ海道を走りますね。何時スタートにしましょう?」。
Sさんに聞く。
「9時にしましょう。ホテルの玄関待ち合わせでいいと思います。駅前に向島(しまなみ海道のスタート地点になる)までの渡し船が出てますんで、それ乗って行きましょう」。
「わかりました。では、明日の9時に下で」。
Sさんと別れ、部屋に戻る。

テレビをつけると、阪神は逆転負け。
途中まで勝っていたが、「打てへんから、流れ的にどうせ負けるやろな」と思っていたので、大してショックを受けなかった。
俺は子供の頃から阪神ファンだが、阪神は負けたところで敗者の美学など微塵も無く、「ダメなやつはダメ」という現実を教えてくれる球団だ。
俺はもともと期待などしていない(しても自分が傷付くだけ)。

「そろそろ寝よか」とベッドにもぐり込む。
と、電話がかかってきた。
「最悪やわ。また仕事関係かよ」。
スマートフォンの画面に目をやると、母親の電話番号。
「何かあったんか!?」と心配しつつ応答する。
「はい。何?」。
「家出しようと思ってんねん」。
いきなり意味がわからない。
「どういうこと?」。
「あんたは好きに生きてるやろ?だから、お母さんも好きに生きるねん。明日、家を出るから」。
「え、どうすんの?」。
「しばらくは何とかなるよ。大丈夫」。
俺はたじろぎすぎて何をどうすればいいかわからず、とりあえずTVの電源を切った。
「明日から家出するから」。
「え?」。
時間は覚えていないが、随分と長い間話した気がする。

話し終え、「どうしてん?」「俺はどうしたらええねん?」と考える。
急な話すぎて、動揺するしかない。
そして、また母親から電話。
「あんたは自分の道があるやろ?お母さんも自分なりに生きていく。しばらくは何とかなるから」。
「はぁ…」。
話に耳を傾け、「はい」「はぁ…」を繰り返すしかない俺。
「お母さんは家を出るから」。
いろんなことを考えながら母親を話を聞いていると、「あら、さっきも同じ話をしたやん」と思った。
話は長々と続いたが、同じ話がループ。
「あ、酒飲んでるんやわ」と思う。
ただ、「話を聞いてほしいから電話をかけてきたんやろ」とも思い、何度も何度も同じフレーズを聞いては「冷静になってな」と返す。
時計に目を向けると、12時過ぎ。

「じゃあ、明日から家を出るから」。
母親はそう言って電話を切ったが、俺としては「ほな、寝よか」にはなれない。
10年ほど前に更年期がどうたらこうたらと言っていたし、70前なので何があるかわからない。
「どうしたんやろ?」。
「俺はどうしたらええんやろ?」。
ベッドの中でそんなことを考えていると、1時を過ぎていた。

つづく

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