(455)しまなみ海道を走り、とびしま海道を走り~安芸むすびの時間~

新幹線の改札口を入ったのはいいが、土産物屋は閉まっていた。
「ねぇ、Sさん、駅員に声掛けて改札の外に出してもらったらいいんじゃないですかね。外の土産物売場なら開いてますし」。
「はい。では、行ってきます」。
10分後、もみじまんじゅうの入った袋をぶら下げて、Sさんが戻ってきた。

「Sさん、俺ね、待ってる間考えてたんですけどね、駅弁は買ったけどビールが無いんですわ。改札出たところのセブンイレブンに行ってきますわ」。
「じゃあ、僕の分のチューハイも買ってきてもらえますか?」。
駅員に声を掛けて改札を出してもらい、買い物を済ませてSさんの元に戻ると、「あと10分ぐらいで新幹線の時間ですね。ホームに上がりましょう」。

さて、気合いを入れなければならない。
勝負の時が間も無く訪れる。
「新幹線に乗り込んだら、特大荷物スペースに輪行バッグを置きましょう。ソッコーで」。
「そうですね」。
「念には念を入れて、一番前に並んで新幹線を待ちましょう」。
確か、そんな話をしながら、椅子取りゲームに挑む感覚で新幹線を待った。

「来た」。
ホームドアが開き、新幹線のドアも開いた。
輪行バッグは既に担いでいる。
戦闘態勢で乗車…の後、少し拍子抜けした。
車内はガラガラ。
特大荷物スペースを利用する先客などおらず、「はっきり言って余裕だね!」。

通路を挟んで隣にSさん。
チューハイを飲みながらスマートフォンをいじっている。
俺はトレイの上に安芸むすびを置いた。
右上に缶ビールを配置。
準備万端だ。

弁当の包みを取り、蓋を開ける。
俵むすびが4つ。
「これだけでも腹がそこそこ膨れそうやな」。
鶏の唐揚げにキャベツ。
「少量でもキャベツが添えてるところが嬉しい。芸が細かいねぇ、こいつぅ」。
白身魚のフライ。
「これがメインやな。フライを中心にかじりつつ俵むすびをを食おう」。
蒟蒻の煮物。
「普段なら有り難がって食わないが、脇を固める存在としてはしぶい。今日は有り難がって食おう」。
枝豆。
「嬉しい。これを考えた人は、ビールを飲みながら食う人のことを考えている。最高の心配りやな」。
他にも、卵焼きやら蓮根もあり、全体を「飯として食べるチーム」と「酒のあてチーム」に分類し、俺は箸を持った。

白身魚のフライを少しかじった後、続けて俵むすびを頬張る。
と、「嘘やん…?」。
口の中に梅の味が広がった。
半分残った俵むすびの断面を確認したところ、練り梅。
「これは…、俵むすびそれぞれに具材が入っていて、単品でも味わえるものなのか…」。
作り手の心配り、サービス精神を痛感せずにはいられない。
「恐るべし…」。
大袈裟な表現ではなく、本音としてそう思った。

隣では(通路を挟んで)、相変わらずスマートフォンをいじるSさん。
俺は安芸むすびと向き合い、安芸むすびを堪能する。
が、残念でならない。
広島から俺が新幹線を降りる新神戸へは、1時間10分ほど。
たったの1時間10分だ。
もっと時間が欲しかった。
もっとゆっくりと、どっぷりと安芸むすびに浸かる時間が欲しかった。

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