(472)ロードの旅 ビワイチ編~ロードイップス~

右手が痛い。
右胸はもっと痛い。
もしも彦根(だったと思う)でスリップも転倒も無く怪我をしなければ、楽な気持ちで琵琶湖大橋を渡れただろうし、明るい時間帯に余裕を持ってビワイチを完遂していただろう。

「長いよなぁ」。
「下りも長いよなぁ」。
「ブレーキ掛けたら右手が痛むし、掛けへんかったら掛けへんで怖いし…」。
「ほんま勘弁してほしいわぁ…」。
泣き言を言いながら、やっと渡り終えた。
ちなみに、橋の長さは約1,400m(帰ってから調べた)。
体感ではなく、本当に長かったようだ。

「とりあえずやけど、ビワイチ(北湖)終わったー」。
そう一安心したが、守山駅前のホテルまでまだ10㎞ほど走らなくてはならない。
しかも、相変わらず雨が降りしきるスリップしやすい環境で、おまけに街灯が少なく辺りは暗いんですよ。
「最悪やんけ…」とうんざりする状況だが、ホテルに戻らなくてはならないのだ。
そう、現実と向き合わなくてはならないのだ。
俺は覚悟を決める。
と、そんな矢先にローソン発見。
サイクルラックにロードバイクを引っ掛け、おにぎりを買いに入店。
正直なところ、別に腹は減っていなかったが、辛い現実と向き合いたくなかった。

雨は止まない。
ローソンの前でびしょ濡れのふたり。
お互いスマートフォンでGoogleマップを確認しながら、「守山駅までどのルートで行きましょう?」。
なんやかんやと話した後、Sさんに提案してもらったルートを採用。
「ひとまず、真っ直ぐ進んで途中で右ですね?OK」。
俺が前を引いて走り始めたが、路面はびしょびしょだし、やっぱり前が見えにくい。
おにぎりを食ったところで状況は変わらず、はっきり言って最悪だ。
でも、現実と向き合わなければならないんですよね。
「1日に2回も落車したら、精神崩壊するわ」と思いながら、慎重に慎重に進む。
この時の俺は、ロードイップス。

交通量はそこそこ。
車道でスリップしたら最悪死ぬ。
それは回避したいので、一歩一歩確実に守山駅へ近付いた…つもりでいたが、「まだたったの2㎞ぐらいしか進んでないですよ」とSさん。
この一言は、まぁまぁ精神的ダメージがでかかった。

前をSさんに譲り、すいすい進んで行く。
Sさんだけ。
俺はコンディションの悪さが怖すぎて、思い切ってクランクを回せない。
2、3回回せば脚を止め、暗闇の中を凝視する。
亀裂。
側溝の蓋。
マンホール。
勘弁して…。

Sさんは遥か先を進み、信号以外に明かりが灯らない交差点で俺を待ってくれる。
「お待たせしました」。
またふたりで走る出すが、俺は恐る恐る。
そして、気が付けばSさんは遥か先。
交差点で「お待たせしました」。
それを2、3回繰り返し、自分の足手まといっぷりを痛感した。

ホテルまであと5㎞…、4㎞…、3㎞…だが、俺は神経を尖らせすぎていたのだろう。
たった1㎞が10㎞ぐらいに感じる。
また、低速で走ってきたため、「脚も体力も問題無し。右手と右胸以外はぴんぴんしてる」と思っていたが、精神的に疲れた。
そのせいか、体全体が気だるく感じてしまう。
「そろそろ駅が近いはずやのに、何でこんなに暗いんやろ?」。
「まだびびりながら走らなあかんのか?」。
「右手と右胸の痛みにまだまだ苦しまなあかんのか?」。
心の中で不安が山ほど積み上がる。

「では、ここで。krmさんは真っ直ぐ進んで下さいね」。
Sさんが俺にそう言って立ち去った。
ふたりとも宿泊するホテルは守山駅周辺なのだが、Sさんは西口で俺は東口。
「はい、ではまた後で」。
しばらくひとりで走り、「あぁ、これか。線路を渡る陸橋は」。
「でも、どこを走ったらええねん?」。
周辺をうろうろした後、陸橋の脇に歩道を発見。
元々いた位置から信号を渡ればすぐそこにあったのに、俺は辺りを1周していた。
「踏んだり蹴ったりやわ…」。

陸橋を渡り、守山駅の東側に出た。
そして、なるべく短い距離でホテルに向かいたかったが、「ここは進んでええんか?」。
「何か、会社の敷地っぽいけど」。
「入って怒られるんも嫌やしな…」。
結局、迂回、迂回を繰り返し、やっとホテルの近くまで辿り着いた。
「直線距離やと短いのに、やたらと長い道のりになったな…」。
「ほんま、勘弁して下さいよ…」。

つづく

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