(505)ロードの旅 また来たビワイチ~5分後の悲劇~

つづき

守山駅東口にあるホテルに向かって、守山栗東線を走る。
「やっとここまでたどり着いたわぁ」。
JR琵琶湖線、線路下の地下道が見えた。
「これをくぐって駅の方に進むと、ホテルや」。
「5分もかからん。やっと横になれる…」。

サドルを降り、ロードバイクを押しながら地下道を歩く。
「もうすぐやわ。横になれる…。ビール…」。
「ビール…」。
「ビール…」。
「確か、ホテルの近くにコンビニがあったな。そこでビールを買って部屋で飲も」。

地下道を抜け地上に上がると、しばらく暗い景色が続き、その中をクランクを回して回して、ホテルに、セブンイレブンに少しずつ近付く。
が、よく考えてみると俺はロックを持っていない。
忘れてきたのだ。
セブンイレブンの前で無防備に駐輪するわけにもいかない。

「はぁ…」。
自分のアホさ加減に溜め息が出る。

が、よくよく考えてみると、ホテルにはビールの自販機があるはずだ。
宿泊先のホテルはお洒落な外観だが、宿泊客はおっさん率が高い(おそらく)。
おっさん率は、ビール率とイコールで結ばれる。
「うん、ホテルには間違い無くある。ビールの自販機があるわ」。
「チェックインしてから、ホテルで買お」。

セブンイレブンを通り過ぎ、数秒でホテルの向かいにある駐車場に着いた。
歩道に面した駐車場のフェンス。
そこにロードを立て掛け、雨に濡れた地面にサコッシュを置き、「あー、面倒くさっ」。
チェックインする前に、ロードを輪行バッグに収納しなくてはならない。
走り終えて収納作業するのは、いつも気が滅入る。
「あー、面倒くさっ」。
ロードを上下逆さまにし、前輪と後輪を外す。
「あー、面倒くさっ」。
サコッシュから輪行バッグを取り出して、まずはエンド金具をリアエンドに取り付ける…つもりでいたが、俺のテンションが下がり切っていたからだろう。
エンド金具が、手から滑り落ちた。

中腰になり、地面に落ちたエンド金具を拾い上げると、「えー!?」。
「バネと止め具、あらへんやんけ!」。
落とした衝撃で、部品がどこかに飛んで行ったようだ。
Volt400とスマートフォンのライトで足元を照らす。
見当たらない。
落ち葉や落ち枝をかき分け、必死にバネと止め具を探す。
が、やはり見当たらない。

「参ったなぁ…」。
エンド金具が満足に使えない状態で輪行バッグを使うと、リアディレイラーが破損する(かも)。
翌日、1時間ほど電車に乗って帰る予定だが、どうすればよいのか。
家に着くまでの間、輪行バッグを肩に担いだままで耐えなければならないのか。
嫌すぎる…。

「一度、冷静になろう」。
そう自分に言い聞かせ、辺りを見回したところ、フェンスの下に溝があった。
「あぁ、ここに部品が転がって落ちたんやわ」。
「そうに違いない」。
地面に這いつくばるようにして、ライトを溝に当てる。
が、また落ち葉が邪魔をした。
手で払い除けながら、「バネはどこや?止め具はどこや?」。

背後に人の気配を感じた。
どこの誰かは知らない、ただの通行人。
彼からすると、きっと俺は「自販機の下に転がった小銭を拾おうとしてる人」レベルに見えたと思う。
正直、惨めな気持ちにもなったが、今は恥や外聞も無い。
部品を見付け出さなければ。

道の脇に這いつくばり、既に10分は経過したと思う。
その間、何人か俺の後ろを通り過ぎたようだが、気にしている場合ではない。
「バネ、バネ」。
「止め具、止め具」。
死に物狂いで探す。
と、「あの、大丈夫ですか?」。
背後から声を掛けられ、振り向くとスーツを着た女性。
何となく、就職活動中の学生に見えた。
俺は自然に「全然、大丈夫ちゃうよ。エンド金具の部品を紛失したもん」と言いそうになったが、頭の隅で「大丈夫って?」。
何か引っ掛かる。
「もしかして、この人、俺を病人と思ってるんちゃうか?」。
「何かの発作が出て、もがいてると思ってる思ったんちゃうか?」。
違うよ。
「いえいえいえ、自分は大丈夫です」。
そう告げると、女性は去って行った。

彼女は優しい人だと思う。
が、感心している場合ではない。
「あかんわ。俺、やっぱり変に目立ってるんやわ…」。
「終いに、警察に通報される…とか嫌やわ…」。
紛失した部品は諦め、急いで、そして適当に収納作業を終わらせて、ホテルにチェックイン。

部屋に入り、「ほんまに最悪やったわ…」。
一気に疲れが出た。
ベッドに寝転がり、「何かでエンド金具の代用はできないか?」と考えたが、特に良い案は出ず。
結局、「明日の朝、電車に乗る前に、駅周辺で自転車屋があるか探して、新しいの買ったらええわ」となった。

「もう、今日は何も考えたくない…」。
風呂に入り、服を着替える。
そして、「さぁ、晩飯を食いに行こかぁ」と、サコッシュの中から財布を取り出す。
と、「何で?」。
モバイルバッテリーやケーブルでごちゃごちゃしたサコッシュの中に、バネがある。
止め具まで。
「え?」。
金縛りにあったような感覚。

しばらくして冷静になり、そして考える。
何故、サコッシュの中にバネと止め具が入っているのか。
俺がエンド金具を落とした時、その衝撃で部品は飛んで行った。
で、その先がたまたま地面に置いていたサコッシュの中?
可能性としては随分と低いが、現にバネも止め具もある。
理解に苦しみつつも、「まぁ、これでエンド金具が使えるようになったわけで、輪行も問題無くできる。良しとしようや」。
そう自分に言い聞かせた。

が、後になって「サコッシュの中はさすがに盲点やでぇ」と、やりきれない気持ちになった。
人目に晒され、道の隅で這いつくばり部品を探した俺の行為は、一体何だったのか…?

つづく

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