(546)ロードバイクに乗って淡路島を走る~信条を曲げる~

ジャージのバックポケットに入れたスマートフォン。
「あっ」。
バイブの振動を背中に感じたが、無視。
前傾姿勢で脚を回す。
左手には海。
ただの田舎道を走るのとは違い、「今、俺は淡路島を走ってるんやわぁ」。
実感が込み上げてきた。
本来なら、常に海を間近に感じて走る。
それこそ「アワイチ!」なのだが、道を間違えたり色々とあり、「やっと」と言うか「久々に」と言うか、とにかく俺は淡路島を走っている。

朝の寒い時間帯にスタートし、あまり汗をかくことも無く、頻繁に水を飲むことも無かったが、ボトルに手を伸ばすとカラ。
クランクを回しながら「いつの間に水が減ったんやろ?」と不思議に感じていると、「あ、心当たりがひとつあるわぁ」。
俺は眠気覚ましにボトルの水で顔を洗っていたのだ。

少々喉が乾いてきたが、我慢。
淡路島の西側には都合良く自販機など無い。
経験上、期待してはいけない。
そして、経験上このまま走り続けると、いつか小さな町にたどり着くはず。
コンビニか自販機ぐらいはあったはず。
「そう、我慢だ」。
「都会の常識は、潔く諦めろ」。

交通量は少ない(0に近いレベル)。
おかげで、事故に遭う懸念もほぼ無い。
気持ちに余裕が生まれ、ちょくちょく左手に目をやる。
「海やわぁ」。
「まだ海やわぁ」。
内陸部を走っている時、「早く海が見たい…」と願ったが、海の近くを走り続けていると、「何かさぁ、飽きてきたわ」。
綺麗な景色に包まれクランクを回す。
それは贅沢なことだ。
理解している。
頭では理解しているのだ…が、「刺激が欲しいわぁ」。
自分でも何故だかわからないが、無性にダムが見たくなった。

淡路島にダムがあるのかは知らない。
ただ、あったとしても、俺が知らないということはアワイチのコースから外れているのだろう。
「まぁ、ダムは諦めよか」。
心の中で軽く溜め息を吐き、前を向くと「うっわぁ。だっるいわぁ」。
坂が見えた。

「あぁ…、今頃思い出したわ…」。
淡路島の西側はなかなかの田舎で、小高い山や丘を越えると小さな町があり、町を通り抜けると自然豊かな景色。
そしてまた小高い山や丘を越えると…なのだが、「小高い」と言ってもある程度走った後の登りは鬱陶しい。
じわじわと堪える。

目の前に困難が立ちはだかった時、向き合わずに回避すること。
それが俺の信条だ。
しかし、坂を迂回するルートを調べるのが面倒だし、遠回りするのも嫌だ。
「あ~、しゃーないなぁ」。
うなだれつつ左の手に目をやる。
「はぁ…」。
俺はシフトレバーを内側に押し込んだ。

つづく

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