(568)ロードバイクに乗って地蔵寺、そして大日寺へ。-8

大日寺の近くにある四阿(あずまや)で20分ほどダラダラし、またサドルに跨る。
Nさん(50代 男性 俺を車に乗せて鳴門へ連れてきてくれた人)との待ち合わせ場所、渡船乗り場に戻るのだ。
時間には余裕がある。
脚を回すこともなく、緩やかな坂をゆっくりと下った。

「とりあえず、来た道と同じルートで帰ろうか」。
道幅が狭い割に交通量がそこそこある12号線を回避して、なるべく側道を走って東へ進む。
が、迂回路が無く要所要所で12号線を走らなくてはならない区間も。
「あぁ、考えるだけで鬱陶しいわぁ」。
少し進んだところで、12号線に合流した。

しばらくはストレスを感じながら走らなければならない。
交通量が増えれば車道のギリギリ左端を進み、「怖いし、路面ガタガタやんけ」と思えば歩道に逃げる。
「はぁ、歩道もガッタガタや…」。
また車道に出て走り、また歩道に戻り…。
進んだ気がしない。
「あかんわ。魔界村やってる気分になってきたわ…」。

繰り返すが、時間には余裕がある。
時間をかけて、ゆっくり進めばよい。
そう頭ではわかっているが、思い通りに走れないせいでイライラ…イライラ…。
「ほんま、だっるい道やで」。

と、道沿いに「鳥の巣工房」。
鶏肉を扱っているお店かと思ったが、看板に「バウム」と記されているので、洋菓子の会社なのだろうか?
まぁ、それはいい。
何よりも気になったのが、「鳥の巣」。

「鳥の巣は、今も元気にしてるんかなぁ」。
約25年前のことだ。
高校のクラスメイトに「鳥の巣」と呼ばれる男がいた。
クランクを回しながら思い出す。
「懐かしいよなぁ、鳥の巣」。
「天然パーマでモジャモジャの頭やったよなぁ」。
「あいつ、今、何してるんやろ?」。
脳内で回想シーンがスタートした…が、思い出せない。
髪形はしっかりと覚えているが、顔、体格、名前…。
思い出せない…。

高校に入学後、しばらくしてクラスの中でいくつかのグループができた。
ざっくりと分類すると、体育会系、ヤンキー、普通、オタク。
俺と鳥の巣は別のグループなので、同じクラスでもあまり接する機会は無かったと思う。
ただ、一瞬だが鳥の巣と一緒にはしゃいだ記憶がある。

その時、鳥の巣の隣にいたのは、Tだ。
Tはいつも鳥の巣とつるんでいた。
「そやそや、Tのことを思い出せば、鳥の巣のことを思い出す手掛かりになるはず」。

Tは無口で、表情もあまり変わらないタイプだったと思う。
なら、大人しくて勉強ができるタイプかと言えば、そうではない。
決して優等生ではなかった。
確か、趣味が競馬で、競馬場に出入りする高校生だったはず。
ある日の競馬場で、レースの展開を熱心に見守るおっさんが近くにいたらしく、そのおっさんのセカンドバッグを盗もうとしたところ、見つかってぶん殴られた。
そんな話を聞いた気がする。
「で、他に何かTの思い出、あったっけ?」。
「無いな」。

俺の記憶力が悪いのか、Tに対する記憶が乏しい。
となると、鳥の巣を思い出す手掛かりも無い。
鳥の巣の顔は忘れた。
体格も忘れた。
名前すら忘れた。
ただ覚えているのは、鳥が卵を産み、育てる環境が整っているような髪形。
それだけ。

「う~ん、他のこと、ほんまに思い出せんわ」。
「せめて名前ぐらいは…。う~ん、何やったかな?」。
「わからん…」。
と、むしゃくしゃしながら、俺は12号線を東へ走った。

つづく

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