(607)千博屋の唐揚げ弁当を目的とした淡路島ライド~クランクを回し始める~

8時10分。

カチャカチャ…。
「歩きにくいなぁ」と思いながら、SPD-SLシューズで狭い桟橋を進む。
「これ、滑ったらやばいよな」。
「俺、泳がれへんで…」。
神経を磨り減らしながら、一歩、また一歩。
少し先の方に、釣竿を持って佇むNさん(50代 男性)の姿が見えた。

「Nさん、今から走ってきますわ。で、その前にですね、車のキーを返さなあかんな…と」。
首を1回縦に振り、右手を出すNさん。
「あれから釣りはどうですか?大漁ですか?」と尋ねつつ、クーラーボックスに近付くと、「魚はこっちですよ」。
Nさんは海面を指さす。
「どれどれ」と、海水に浸かった篭に目を向けると、魚が3匹。
「これ、真鯛ではないですよね?」。
「はい。アジが2匹、それと××が1匹です」。
××の部分は忘れた。
「真鯛じゃなくてもよかったですねぇ。『今日はあかんわぁ』みたいなことを言ってたのに、3匹ということは調子出てきたんちゃいます?」。
「まぁ、1匹は、あっちで釣ってる知り合いに貰ったんですけどね」。
ばつが悪そうに、少し離れた桟橋を指さすNさん。

俺はしゃがみこみ、釣りをするNさんと景色をぼんやり眺めたが、「そやそや」。
まったりしている場合ではない。
「じゃあ、俺、そろそろ行きますわ」。
カチャカチャ…。

8時20分。

ハンドルを握る。
やっとスタートだ。
が、当初予定していた淡路島南部の山岳コースを走るのは、想像しただけで気が滅入ってしまう。
「ほんまは7時に走り始める予定やったけど、車の中でだらだらしたせいで持ち時間も減ったし、やめとこかぁ」。
「山は無視して、直接、千博屋に行って唐揚げ弁当買ったらええんちゃうか?」。
「いやいや、今から行っても、店、開いてへんやろ」。
またルートを検討する。
「ここから少し北に行けば洲本城があるなぁ」。
「洲本城に寄ってから千博屋に向かおうか」。

8時25分。

由良港から北に進むと、すぐに由良大橋。
アワイチを反時計回りに走り、脚がボロボロになりつつも山岳コースを通過した後、この橋を見て「耐えた…」と思ったのは何年前のことだったか。
「うん、忘れた」。
橋の真ん中で足を着き、ジャージのバックポケットからスマートフォンを取り出し、風景を写真に収める。

8時40分。

海を横目にクランクを回し続けると、「淡路島を走っている」。
そんな実感が湧いてきた。
交通量は少なく、信号も無い。
少し寒く感じたが、風を受けて進む心地好さが勝る。

アワイチを楽しむロード乗りカップルとすれ違い、お互いに会釈。
「あの人ら、これから登りやなぁ。かわいそうに」。

8時45分。

今、俺が向かっている洲本城には、10年ほど前に一度訪れている。
クロスバイクに乗った俺は、拷問に近い登りを経験した。
が、苦い思い出は心に焼き付いているのに、洲本城へのルートは記憶に無い。
「あれ、どこやったっけ?」。
「どこかを曲がって登りに入ったような…」。

困惑しながらクランクを回していると、右手に豪華ホテルが密集する一画。
「確か、この辺りやったと思うんやけど…」。
さらに進む。
と、ホテルニューアワジが見えたところで案内標識が目に入った。
「洲本城へは、ここを左に曲がる?」。
「あ、そうやそうや。ここやったわ」。

つづく

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