(608)千博屋の唐揚げ弁当を目的とした淡路島ライド~10年を経て~

8時50分。

洲本城本丸に向けてクランクを回す。
緩やかな登り。
緩やかなカーブ。
「ここは序章に過ぎん」。
「拷問が待ってるんや」。
気合いを入れる俺。

この先の登りで地獄を見たのは、10年前。
クロスバイクを買って、まだ間も無い頃だ。
当時の俺は、「自転車なんかペダル踏んだらええだけやんけ。なんぼでも走れるわ」と、ロングライドを嘗めていた。
「キャノンボール?はぁ?時間さえあればやってやるよ。このBRIDGESTONE ORDINAで」。
そんな勘違い野郎ど真ん中の俺に、現実を教えてくれた洲本城への坂まであと少し。

と、背後でエンジン音。
「何か変な感じするよなぁ」。
エンジン音が近くから聞こえたり、遠くから聞こえたり。
「どういう現象なんや?」と振り返る。
「何や?アホみたいなんがおる」。
黄色のダウンジャケットを着た男が原付に股がり、何やら嬉しそうに蛇行運転。
「淡路島では、こういうのが流行ってるんか?」。
心の底から薄寒さを感じた。

8時52分。

10年前に現実を教えてくれた登り…が、目の前にある。
「傾斜が急で、壁のよう。しかも長い…」。
そんなイメージが残る嫌な坂。
しかし、10年経った今の俺には、「平坦路にちょっと毛が生えた程度の傾斜」で「短い」としか感じない。
「どこか別の坂と間違えてるんちゃうかな?」。
記憶を手繰り寄せ、前を見つめる。
「うん」。
木々に囲まれたこの坂は、間違いなく、かつて地獄を味わった坂だ。
で、実際に登ってみると、「しょっぼー」。
クロスバイクとロードバイクの差なのか、この10年間で脚力がついたのかわからない。
ただ、素直に「しょっぼー」。

8時55分。

登り終えると、駐車場。
肩透かしを食らった気分で辺りを見回すと、「はいはい、見たよ。この景色」。
記憶が自然に甦った。
「本丸はまだ先やったな」。
また緩やかな登りと向き合い、またゆっくりとクランクを回す。

淡路島南部のえげつない登りの連続とは違い、洲本城があるこの三熊山は、俺に優しかった。
脚を回しながらも、景色を目で楽しむ余裕を与えてくれる(木ばっかりやけど)。

9時。

これまで登ってきた一本道を右に曲がり、本丸へ進む。
と、道幅は急に狭くなった。
ゆっくり、ゆっくりと登り、その先に石垣。
一度、立ち止まって辺りを見回す。
「いいねぇ」。
「城に来たって実感が湧いてきたわぁ」。
景色を写真に収めた後、また脚を回す。
ロードバイクに乗って城攻めをする気分だ。

9時3分。

また右手に駐車場。
「ここから先は歩こうか。路面もそんなに良くないみたいやし」。
サドルを降りる。
心の中では「目的地にはほぼ着いた」なので、気楽なものだ。
クリートにカバーを付け、ハンドルに軽く手を掛けて、カッチャカッチャ…。

つづく

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