(610)千博屋の唐揚げ弁当を目的とした淡路島ライド~芝右衛門狸~

9時15分。

洲本城天守を眺めていると、「もうちょっと近くで見たいよな」。
ロードバイクを担ぎ上げ、天守台への階段を上る。
と、大阪湾を一望する絶景が。
「おぉ…、眠気も疲労も吹っ飛ぶわ」。

「西宮の俺の家、それと大阪の実家が見えるかな?」。
少し期待して目を細めたが、見えない。
かすりもしないレベルで。
「やっぱり遠すぎるよな」。
「まぁ、アングルの問題もあるし、俺、視力が悪いし」。
「うん、何にしても、記念に写真を撮っとこか」。
そこら辺の木にロードを立て掛け、スマートフォンを手に取り、天守台の隅に2、3歩進む。
そして、シャッターボタンを押そうとしたが、「あかんわ。怖いわ」。
SPD-SLシューズを履いているため、足下は不安定で怖い。
また、崖っぷちに設置されている手すりが妙に低い。

「おいおい、太ももの位置までしかあれへんやんけ…」。
さらに、「俺は高いところが好きではない」。
今頃思い出した。
「とりあえず、適当に写真撮って退散しよ…」。

10時5分。

ベンチに座ってぼんやりしていると、ジョギング中の女性が目を前を走り過ぎた。
「ここに来て初めて人間を見たような」。
俺は人恋しくなったのか、彼女の後ろ姿を目で追う。
膝を上げ、カッカッカッと天守台への階段を上る彼女。
「この人、俺よりも運動神経ええよなぁ。確実に」。

ベンチから立ち上がり、「そろそろ行こうかぁ。唐揚げ弁当を買いに」。
ロードを押して歩き出す。
「おぉ、ちらほらと観光客がおるなぁ」。
すれ違う際に軽く会釈し大石段に向かうわけだが、来た時から気になっていた。
本丸の片隅にある祠。

「何を祀ってるんやろ?」。
祠の正面に回ると、小さな狸の置物。
「あ、そうか。芝右衛門狸やわぁ」。

以前、YouTubeで中山一朗氏(作家、オカルト研究家)が芝右衛門狸について語っているのを視聴したことがある。
確か…、昔、洲本に芝右衛門狸という化かす日本トップレベルの化け狸がいました…と。
彼は悪さばかりする狸ではなく、人助けもするので地元ではなかなかの人気者。

ある日、大阪の道頓堀で評判のいい芝居をやっていると噂を聞きつけ、芝居好きの芝右衛門狸は奥さん狸を連れて旅立つ。
大阪に着いて、テンションが上がるふたり。
「おい、お互いに化かし合いをしようや!」。
まず、奥さん狸は大名行列に化けた。
「お見事!」と芝右衛門狸。
「俺も大名行列に化けるわ」。
そして、奥さんの前を大名行列が通り過ぎる。
「お見事!」と手を叩く奥さん狸…なのだが、それは本物の大名行列で、「無礼な!」。
侍に切りつけられて死亡。
芝右衛門狸、ショック!
なのだが、「せっかく道頓堀まで来たのだから、あいつの分も芝居を見て楽しもう」。
芝居小屋に入って、「おおー!傑作や!」。
以後、芝居小屋に何度か訪れた。
が、木の葉を金に見せ掛けて見物料を払っていたのを芝居小屋にばれてしまう。
「これは狸の仕業やな。客の中に狸が紛れ込んどるな」。
翌日、犬に見張らせたところ、芝右衛門狸は襲われギブアップ。
お亡くなりに…。
その後、芝居小屋の客入りが悪くなった。
「おいおい、これはあの狸の祟りちゃうか?」と芝右衛門狸を祀ってみると、客足が戻りましたとさ。

彼は今も役者さんや芸人さんに信仰されているらしい。
まぁ、俺はどちらでもないが、賽銭箱に百円玉をひとつ入れ、そして手を合わせた。

つづく

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