(617)千博屋の唐揚げ弁当を目的とした淡路島ライド~ホテル ニューアワジ~

13時9分。

「ホテル ニューアワジ」の前を通り過ぎる。
このホテル、近畿ではなかなか知名度が高い。
泊まったことがない人でも名前は知っている。
と言うのも、テレビをつけると毎日のようにCMが流れているからだ。
そのせいか、子供の頃の俺はホテル ニューアワジに親近感を覚え、いや、覚えすぎたからか、「近所の銭湯に雑魚寝できる部屋が付いた程度のホテルなんやろな」と思っていた。

が、ある程度、大人になって世の中が見えてくる。
出張や旅行で「とりあえず寝れたらええわ」レベルのホテルに宿泊し続けることで、ホテルのランクがぼんやりと理解できるようになり、「ホテル ニューアワジって、実は高級ホテルやったんやなぁ」。
それに気付き、「俺には縁の無いホテル」として脳内で処理した。

社会における自分の立ち位置を確認したあの日を思い出し、スピードとケイデンスは自然と落ちていった。
前を向いて景色に目をやり、少しでも気を紛らわせようとしたが、「あ、違う違う。縁、あるやん。系列のホテルに泊まったわ」。

10年ほど前、まだクロスバイクに乗っていた頃、俺はアワイチに挑戦した(まぁ、リタイアした)。
その日の夕方、岩屋港に着き、「もう暗くなるわぁ。今からアワイチは無理や。とりあえず宿泊先を決めな」。
じゃらんだったか楽天トラベルをチェックしたところ、ホテルニューアワジ系列のホテルが目に留まる。
確か、「当日予約限定!20時以降のチェックインのみ!スペシャルプライスダウン!」みたいな文言に、俺は魂を揺さぶられまくった。
「はい、予約完了」。

日が沈んだ。
外灯は少なく、洲本の中心部以外に大きな町も無く、ただ薄暗い28号線を南へと進み、そして予約したホテルに着く。
既に20時を過ぎていた。
チェックインの際、フロントで「食事を取りたいのですが、何階にレストランがありますか?」と尋ねたところ、ラストオーダーの時間は過ぎていると。
ただ、「ホテル ニューアワジの本館では食事ができますので、車で送迎させて頂きます」。
「OK」。
荷物を置きに部屋に入る。
と、「おっさんひとりで泊まるのに、これは広すぎるやろ…」。
贅沢すぎる環境に、俺はたじろぎまくった。

「人生において、あれ以上の部屋に泊まったことは無いよなぁ」。
足を止め、腕を組んでしみじみ。
左手には海が見えた。

部屋に荷物を置いた後、またフロントに向かい、「送迎をお願いします」。
玄関を出ると送迎車が用意されていた。
「場違いなところに案内されそうな…」と嫌な予感を少し覚えたが、「やっぱり結構ですわ」と言うわけにもいかず、車に乗り込み、じっとする俺。
「このシミュレーションやと、さすがに『唐揚げ定食 750円』とかは無さそうやな」。
「やばいよなぁ。俺、財布に8千円しか入ってへんで…」。
びびっている間に、ホテル ニューアワジ本館に着いた。
そして、案内されたのはラウンジ。
「うっわ。ガラでもないことをして恥をかくパターン…に導かれてるような気がする…」。
何を食べ、何を飲んだかは忘れたが、メニューを見て目ん玉が飛び出しそうになったことは覚えている。

10年前を振り返り、「人間、身の丈に合う生き方をしないとね」。
砂浜を横目に、俺は頷きながらクランクを回した。

つづく

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