(656)ロードバイクと共に三重県へ行こう~謎の廃駅、謎の海水浴場~

窓の外を眺めていると、「何かおかしいよな」と感じる。
夫婦石を観光し、めおと横丁に寄り、それなりに人混みに紛れた。
ただ、辺りには電車が走っている様子は無く、「あの人混みは、みんな、車か観光バスに乗って来たのか?」。
観光地に電車が通っていないとは、違和感を覚える。
不思議だ。

ハンドルを握るSさん(40代 男性 三重県在住の同行者)に話し掛ける。
「この辺りには、駅が無いんですかね?電車は走ってないんですかね?」。
「無いですね」。
「じゃあ、さっき見掛けた観光客にとっては不便ですよねぇ」。
「一応、離れたところに駅はあるんですが、もう閉鎖されましたよ」。
閉鎖された駅?
廃駅?
廃墟、廃村、廃線、廃駅…。
「廃」の付く言葉に魅力を感じてしまう俺。

「Sさん、廃駅についてもう少し詳しく」。
「もともと、夫婦石に行く観光客用ではないんです。近くの海水浴場を利用する人のために、夏だけ営業してる駅があったんですよ」。
「ほぉ」。
「それが2年ほど前だったか、営業を廃止したようで」。
「ほぉ。コロナの影響もあるんですか?」。
「コロナは関係無いと思います。よかったら、寄りますか?」。
「是非」。

胸が熱くなる。
人のいない海水浴場。
その片隅に佇む駅舎。
廃止されて2年…なので、朽ち果て具合はライトかも知れないが、それなりに痛んでいるだろうと予想する(期待する)。
張り詰めた空気。
一歩中に踏み出せば、「同じ日本人として認めたくない」と思えるほどの、絶望的に知能指数が低いアホの書いた「○○参上」。
激アツだ。

山に囲まれた景色から、ほんの少し海岸が見える。
車を走らせると、辺りには民家がぽつぽつ。
少し先にはホテルらしい建物もあり、一応は観光地らしい。
「着きましたよ」。
Sさんにそう言われて車を降りると、俺は芝生に足を着いた。

「いくら廃駅になったと言っても、これが駅前か?」。
バスやタクシーが行き交ったロータリーの形跡は無い。
商店が並んでいた形跡も無く、辺りは芝生と草むら。
「こっちですよ」とSさんに誘導されて少し進むと、海岸は見えるが駅舎は無い。
「どっちですか?」と聞きそうになった。

「これです」。
海岸沿いに設けられたホーム。
ぽつんと佇んでいる。
「あの、券売機とか改札とか無いんですかね?」。
「もともと無いんじゃないですか」。
「駅舎も?」。
「無いでしょ」。
「廃駅になる前から、ホームしか無い無人駅…ってことですか?」。
「そうやと思います」。
心の中で深い溜め息。
そして、「もともと廃駅みたいなもんやんけ!」と叫びたくなった。

何分経ったのだろう。
柵の向こうにあるホームを呆然と眺めていると、俺の中で疑問が浮かんだ。
この駅は、海水浴場の利用客のために設けられた駅(とSさんが言っていた)。
現に、ホームの左手には海岸が見える。
が、海岸といってもどろどろの湿地帯にしか見えない。
「ここで泳ぐの?」。
「これが海水浴場?」。

駅よりも、湿地帯にしか見えない海水浴場が気になる。
俺はホームの左手を指差し、「ねぇ、Sさん。これが海水浴場なんですか?泳げます?ムツゴロウとか住んでそうなんですけど…」。
「あぁ…、干潟ですね…」。
「…」。

廃墟化した駅舎など無く(そもそも駅舎は最初から建てられていない)、期待は大いに裏切られた。
俺はポケットに手を突っ込み、無言で干潟に目を向ける。
「…」。

つづく

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