サイコンに目をやる。
時速12㎞。
ゆっくり孝子峠を登っていると、湿気を含む不快な風が俺を包み、首筋に汗が流れていることを自覚した。
「あぁ…。ガリガリくん、食いたいよなぁ(普段食えへんくせに)」。

過去に何度か走った孝子峠。
登りがどの辺りで終わり、自分がどの辺りにいるのか、ぼんやりと把握している(つもり)。
「あと少しやわ」。
上ハンを握りながら脚を回し、ただ耐える俺。
自然と目線が下を向き、特に興味も無いが路面を観察しながらクランクを回していると、「そこそこだるかったわぁ」。
とりあえず登りきった。
和歌山県と大阪府の境に俺はいる。
まぁ、「それがどうした」というわけで、下りに入る。
が、ここで「一切、脚を回さずにどこまで下れるか」に挑戦したいと思う。
まずは勾配のきつい坂があり、南海の孝子駅辺りから緩やかな傾斜が長々と続く。
確か、峠の麓は南海加太線の高架。
そこまでたどり着けるだろうか。
脚を回すことなく。
左足で地面を蹴り、ロードバイクがほんの少し前に進む…と急な下り坂に。
往路においてこの坂を登った時は鬱陶しかったが、下りはボーナスステージ。
サイコンに表示される時速がみるみるカウントアップされ、すぐに40㎞/hを超える。
「ちょっと怖いな…」。
一瞬、ゾワッとした。
しかし、ブレーキレバーを引いてはいけない。
この勢いで下りきるのだ。
右手に孝子駅、左手に集落が見えたところで、傾斜は緩やかになったが、スピードは持続。
「行ったれ!オッラァ!」。
俺の全細胞がそう叫んでいる。
ただ、「ちょっと待てよ」。
ひとつ気になることが。
「前も同じことをせえへんかったか?」。
「俺の行動パターンは多様性が乏しい」。
常日頃から、自分を客観的に見てそう思う。
「CoCo壱に行ったら、メニューは豊富でもクリームコロッケカレーしか注文しない」とかですね。
で、以前にも孝子峠の下りで「脚を回さずにどこまで進めるかチャレンジ」をやったような。
やってそうな。
確認を取りたい。
過去にも同じ行動を取ったのかどうか。
「脚を回さずにどこまで進めるかチャレンジ」に挑んだのかどうか。
まぁ、記憶は曖昧なので、過去のブログ記事を読めば判明するだろう。
ブログ内で「孝子峠」と検索すればいい。
ただ、足を着いてスマートフォンをいじっている場合ではない。
今の俺は、止まらず、ただ進むしかないのだ。
トップチューブに目を向け、そして語り掛ける。
「頼むで。このまま俺を峠の麓に運んでくれ」。
「頼むで!Bianchi ARIA 105 233,800円!」。
つづく