(721)ロードバイクに乗って、和歌山1泊2日の旅~孝子峠ダウンヒルチャレンジ②~

6月26日。
ツール・ド・フランスの第1ステージを迎えるこの日、俺は下ハンを握り、孝子峠を下った。

クランクを回さずにどこまで下れるか…を競う伝説(0)のダウンヒルイベント(参加者は俺ひとりですが)。
ゴールは峠の麓。
南海加太線の高架。

序盤、勢い良く走り(下り)出したが、孝子駅の辺りで傾斜は緩くなり、スピードも落ちた。
しかし、心配はいらない。
この先、緩やかな下りが続く。
理論上、俺は脚を全く回さず麓にたどり着ける(はず)。

サイコンに目をやる。
20㎞/h前後。
まだまだ余裕。
気持ちが楽になり、ボトルホルダーのポケットに手を伸ばす。
俺はのど飴を口に含んで、上体を丸めた。

と、「抜きまーす」。
見知らぬロード乗りが真横を通り過ぎた。
下ハンを握りつつ、低い視線から彼の後ろ姿に目をやると、下りでクランクを回しているではないか。
「おいおい、面白味の無いやつやでぇ。ほんまに」。
下りは、まだまだ続くのだ。
伝説(0)の「孝子峠-脚を回さずにどこまで進めるかチャレンジ」に立ち向かおうという気概は無いのか?

溜め息を吐き、「最近の若者は…」と独り言をつぶやきそうになったが、「若者とは限らんよな」。
ロード乗りは、ヘルメットを被りアイウェアを掛けているため、年齢が分かりにくい。
ぽっちゃりした人がロードに乗っていると、「健康のために最近始めたおっちゃんなんやろなぁ」と思うが、普通体型の人は年齢不詳だらけだ。

まぁ、いい。
そんなこと、どうでもいい。
そんなことよりも、時速が気になる。
10㎞/h台に突入した。
一応、前には進んでいるが、ヨレヨレの状態。

「打開策は無いか?」。
考える。
この後、急勾配の下り坂があれば何とかなりそうだ。
が、おそらく無い。
何度か孝子峠を走った俺の記憶には、はっきりと無い…。

微妙な下りではあるが、ほぼ平坦な道。
ありえないレベルの追い風でも吹いてくれると助かるが、そんなもの、微塵も吹かない。
「腹、決めようか」。
悲惨な状況に対し、自力で立ち向かうしかないのだ。

俺は下ハンから上ハンに握り直し、サドルから腰を上げる。
そして、ハンドルを押した。
「孝子峠-脚を回さずにどこまで進めるかチャレンジ」の公式(脳内)ルールでは、脚を回せば失格になる。
が、逃げ道はある。
手を使うのだ。
手を使うのは、アンリトンルール。
紳士協定には違反している…と捉えられなくもないが、どうせ俺ひとりだ。
全国でこんな競技と向き合っているのは。
誰にも批判されない。

「フー」。
「フー」。
「フーー!」。
ダンシングの状態から、必死にハンドルを前に押す。
と、「抜きまーす」。
知らないロード乗りが真横を走り抜いた。
彼は、きっと思っただろう。
「こいつ、何してんねん?」と。
俺は彼に答えたい。
「どうでもええことしてんねん!」と。

ハンドルを押す作業は、はっきり言って無意味だった。
間も無く、ロードはゆらゆら。
死にかけ。
「あかんかった…か」。
俺は左足を地面に着き、「あー、無駄に神経と体力を使ったなぁ…」。
その後、普通にクランクを回し進むと、南海加太線、高架橋の橋桁が見えた。

つづく

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