(724)ロードバイクに乗って、和歌山1泊2日の旅~Tさんと俺②~

「あぁ、あの頃なぁ、家がボロボロやってん」。
俺は「今から苦労話が続くんか?面倒くさい展開…」と身構えたが、久し振りに会うTさんは笑顔で語り始めた。
「家にお金が無さすぎて、バイトで水商売を始めてん」。

彼女は、もともと郊外の高級住宅街で生まれ育ったらしい。
超大物有名人とご近所さんだったとか。
ただ、家庭環境がなかなか複雑で、新天地を求めた母親に連れられて逃走した先が、たまたま俺の校区。
母親は働いて金を貯め、そして財産を費やし、商売を始めた。
が、軌道に乗らず。
「あかんわ…」。
学生ながら母親の仕事を手伝っていたTさんは、「他で働いた方が家計の足しになるやろ」と判断し、水商売の世界に飛び込んだ。

「そんな理由やったんか…」。
二十歳前後の頃、いかにも「水商売してますよ」という風貌のTさんを見て、「ブランド物のバッグが欲しいから」などと安易な考えでホステスになった…と俺は思っていたが、違った。
彼女は、家のために働いていたのだ。
偏見に満ちた俺の考えは、とても失礼だと痛感。
俺は、彼女の人生を知らなさすぎた(そもそも興味すら無かった)。

ちなみに、その頃の俺は、無駄に学費の高いアホ大学の落ちこぼれ。
気が向いたら講義に出るが、向かなければパチンコ屋に入り浸るか、映画館か町の図書館で時間を潰す日々。
Tさんとは、ものすごい差を感じる。

「それでなぁ、バイトから始めてんけどなぁ」。
まぁ、どんな仕事にもあるように、やりきれない気持ちになったことも多かったらしい。
ただ、Tさんは頭が良かったのだろう。
あと、根性もあった。
苦難と向き合いつつ水商売を続け、出世した…どころか、20代半ばで店を持った。
オーナーだ。

ここで重要人物登場。
Tさんは、ある男性と巡り会う。
第一印象は、年齢が離れているせいか、「ただのおっちゃん」。
それが、何度も会っているうちに、「やっぱり、ただのおっちゃん」なのだが、男性の方から「結婚してほしい」。
そう切り出してきた。
Tさんは男性に対し、「ただのおっちゃん」だが、よく考えてみると、彼には取り柄があった。
「仕事に対して真面目」なのだ。

男性は会社を経営し、毎日しっかり働きしっかり稼ぐ人。
男の俺からしても、魅力的だと思う(会ったことは無いが)。
後に彼は旦那となり、Tさんと家庭を築き、子宝に恵まれ幸せに…なのだが、まぁ、それは別の機会に書く。

「いろいろ大変やったんやなぁ」。
「うん、家庭の事情でね」。
髪をかきあげるTさん。
「鬱陶しかったら切れよ」と思う俺。

飲み会が終わりに近付き、「krmくん、Line交換しよ」。
それが切っ掛けとなり、定期的に連絡が入り、今回の「久しぶり~。××日の日曜日、昼飲みせえへん?」に繋がる。
俺としては、「はい」か「いいえ」、そしてその理由を伝えなければならないが、ゆっくりと返事を書くには時間が短すぎた。
信号の赤を灯す時間が。

つづく

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