(149)強風の中、明石焼きを食べる。Tさんとふたり、初めて走る明石ライド-4

国道2号線をひたすら西へ進む。
それにしても、同行者のTさん。
「いったい、何者なんだろう?」と思う。

一緒に酒を飲んでいると、とにかくよくしゃべる。
また、酔いながらも、人に気遣いができる。
基本的に、明るく優しい人柄だと感じるのだが、口数が多すぎて、聞いてるこっちが疲れる時もある。
ただ、「自転車に乗ってる時は、さすがに大人しいやろう。普通に考えて」と思い、今回、ともに明石市までサイクリングすることにしたのだが、見事に裏切られた。

神戸市に入り、ある交差点で歩道に上がり、休憩をとった。
ジャージのバックポケットからスマートフォンを取り出し、1時間毎の天気を確認する。
と、その横で「知ってました?ここ、日本で一番短い国道ですよ!写真撮ろう!写真、写真!」。
大はしゃぎするTさん。
「何やねん?何のテンションやねん?」と心の中でつぶやく俺。

クランクを回しながら考えた。
「何故、Tさんはいつもテンションが高いのか?」。
酒を飲んでテンションが上がり、騒がしいのは理解できるが、自転車に乗って騒がしいのは、どういうことか?

俺は、遊んでる時のわけのわからんTさんしか知らないが、実はこの人、世の中には欠かせない、とても大事な仕事をしている。
そして、世間から見て、成功者と認められる立ち位置にいる。
また、若い頃から将来の仕事を決め、それに向かって勉強に励んだ努力家でもある。
「とてもじゃないが、俺にはできないな」と、素直に感心する。
が、その日のTさんのテンションは、常軌を逸していた。

「あ、そっか。仕事で過度なストレスを抱えているのか。だから、遊んでる時のTさんは、でたらめなTさんなのか」と、思い至る。
「今日は、Tさんに優しく接しないといけないな。少しでもストレスを解消してもらおう」。
そう、心に決めた。

正直なところ、出発した西宮市からここまで、俺なりに優しく接しているつもりだった。
後ろを走るTさんに、「体調はどうですか?」、「もう少しスピード落としましょうか?」と、マメに声をかけていたのだ。
だが、これぐらいでは、まだ優しさが足りない。
「もっともっと、徹底的に優しく接するべきだ」と自分に言い聞かせる。

須磨区に入った。
しばらく走ると、左手に須磨水族館が見える。
道が広く、解放感を満たす道。
自然に足が回るが、「ダメだ」と自分に言い聞かせた。
後ろを走るTさんのペースで、ゆっくり走らなくてはいけない。
そうだ。
とことん優しく接しようと決めたのだ。

と、その時だった。
「足がつったー!」と叫び声がこだまする。
「マジ!?」と思い、後ろを振り返り、Tさんに聞いた。
「大丈夫ですか!?」
「え?」
Tさんは、ピンピンしている。
「『足がつった』と叫びませんでした?そう聞こえたんですけど」
「え?『橋が見えた!』と言ったんですけど」
意味がわからない。
橋?
前方に目を向けると、確かに橋が見える。
神戸の舞子と淡路島を結ぶ、明石海峡大橋だ。
で?
明石海峡大橋を見て、絶叫したの?
わざわざ声に出して。
「何やねん?何でやねん?」。

「優しく接しよう」と心掛けたのは、間違いだったのかも知れない。
あぁ…。
何か、こう、やすらぎが欲しい。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする